バスク
スペイン滞在中、一度だけバスク地方のビルバオに遊びにいった事がある。
有名なグッゲンハイム美術館に行き、サッカースタジアムを見学し、美味しい料理を堪能した。
バスク地方ではバスク語も公用語として使われているのだが、外から来た人にバスク語を強要するようなことはないようで普通にスペイン語を話してくれたし、丁寧で優しい対応をしてくれた。
短い旅行だったが今でも良い印象だけが残っている。
スペインに住んでいる時は全く縁のなかったバスクだが、日本に帰国してからやたらと縁ができていった。
知り合いがバスクの人と関わりがある為、日本へ観光に来るバスク人たちを案内することが増えたのだ。
知り合ったバスク人は、それはそれは皆そろいもそろっていい人たちばかりであった。
バスク語はとても不思議な言語でスペイン語と似ても似つかない。
ポルトガル語やイタリア語はスペイン語が出来ればなんとなく理解できることが多いが、バスク語は全く分からない。
マドリードの友だちはバスク語は宇宙語だと言っていたぐらいだ。
宇宙語を操るだけあって、スペインにおけるバスクの立ち位置は独特だと思う。
なんとなく漂う「別枠」感がある。
比べることすらしない。ライバルでもない。独特な場所。
私はマドリードとアンダルシア地方でしか暮らしたことがないので他の地域の人がどう思っているのかは分からないが、マドリードとアンダルシアからするとバスク地方はそれはもう別世界。
大抵のスペイン人は地元以外の地域にライバル意識があり闘志もりもり。
常に「おらが村が一番」と言い合い相手をディスる。
マドリードの人はよくカタルーニャをディスるし、マドリード以外の人たちはマドリードをディスる。
が、バスクはこの土俵になかなか上がってこないのだ。
いや、ディスることはディスるのだ。バスクをディスらないわけではなく、ディスることもあるのだが、それはどちらかと言うと知らない何か、又は遠い何かをディスっているのであって、近所をディスるのとは若干趣が変わる。
ビルバオには「アスレティック・ビルバオ」と言うとても有名な強豪名門サッカークラブが存在する。
このクラブチームの最大の特徴は「バスク純血主義」を貫いていること。
バスク人のみで編成されているバスク人によるバスク人のための唯一無二のクラブチームなのだ!
しかしバスク人だけしか入れない超地元密着型のチームなのにアスレティック・ビルバオはスペイン全土で人気が高い。人気が高いと言うより、嫌われていないと言った方が正しいかもしれない。
他のチームをけちょんけちょんにディスる国民性にも関わらず、アスレティック・ビルバオだけは一目置かれている。クラブの信念はリスペクトに値するらしい。金に物を言わせてスター選手を集めるのではなく、地元民を育て地元密着型と言うのがスペイン人受けする所以なのだと思う。
大好きなスペイン映画の一つに「Ocho apellidos vascos」がある。
セビージャ男がバスク娘に恋に落ちてバスクに追いかけてくるというラブコメディ映画だ。
2014年に公開されスペインで大ヒットした。
ヒットの要因は間違いなくスペイン人が大好きな地域別ステレオタイプを面白おかしくディスっている映画だからだろう。アンダルシアいじり、バスクいじりが面白い。
残念ながらNetflixでは翌年に制作された続編の「Ocho apellidos catalanes」しか見ることができない。
続編ではアンダルシア、バスクだけではなくカタランいじりが凄まじい。あれだけいじって怒られないのかな?と若干心配だ。大ヒットして悪ノリしてしまったのだろうか?まぁブラックユーモアが大好きな国民なので悪ノリもご愛嬌なのかな?
「Ocho apellidos vascos」
続編「Ocho apellidos catalanes」
Sí o No
スペイン人に「映画に行かない?」と誘われ迷っていると
「Sí o No?(Yes or No)」と返答を急かされたので
「どっちでもいいよ」と答えた。
すると「どっちでもいい?なんて投げやりな答えなんだ。行きたくないってこと?」
となんだか急に会話の雲行きが怪しくなっていくではないか。
私としては「別にどっちでもいいなぁ。行ってもいいし、行かなくてもいいし、あなたのお好きな方でいいよ」と言う親切ニュアンスを含んだつもりで「どっちでもいいよ」と言ったつもりなのだが、そんな私の小さな配慮には全く気付いてもらえない。
「行くか、行かないか」の問題が「行きたいのか、行きたくないのか」の問題へと変化していく。
映画に行く=「Sí」と返答する以外の時、スペイン人がよく使う言い回しは、
「Me gustaría ir pero...」(できれば)行きたい、けど、、、(以下行けない理由)
本当は、できれば、可能なら、行きたい、けど、とやたらと相手を気遣った言い回しで長々と理由を述べるのであるが、要は「No」である。
映画には「行けない」もしくは「行きたくない」のだ。
行けないわりに「あぁ~映画かぁ。とてもいいアイデアだね!最近行ってないから行きたいんだけど~、その日はおばあちゃんの家に行くから行けないんだぁ」などと言う。
文の前半がかなり好意的なので「Sí」なのだなと喜びもつかの間、
「pero」だけど~の一言で見事に逆転してしまう。
思わせぶりぶり攻撃だ。「どっちでもいいよ」はダメなのに、思わせぶりぶり回答はいいなんて。
それにしても「Sí o No?」はスペインでよく聞くフレーズだ。
「Yesか Noか」「白か黒か」グレー好きの日本国民にはなかなかハードな二択。
比較的好き嫌いのはっきりした性格の私でもたまに面倒くさい。
しかし、「Sí o No?」の模範解答が「Sí」又は「 No」ではない場面が多々ある。
特に注意しなければいけないのはNoと言いたい時だ。
Noの場合には代案もしくは行けない理由を一緒に提示しなければならない。
Noの一言だけではダメなのだ。
「卒業式で泣かないと冷たい人と言われそう」と斉藤由貴は歌っていたが、スペインでは「No」と一言で断ったら冷たい人と言われる。
誘いを断るときはなるべく「No」などと一言ではっきり断るのではなく、例え嘘であっても「本当は行きたいのに残念」と言うのが大人の付き合いと言うものらしい。
図太い神経の人々だと思っていた(はい、思いっきり偏見です)のだが、意外と繊細な国民なのだ。
「忖度」は日本だけの専売特許だと思ったら大間違いであった。
しかし「No」や「どっちでもいいよ」がダメなのではなく結局のところ、短い返答がダメなだけらしい。
会話や議論が大好きなスペイン人にとって「No」や「どっちでもいいよ」だけの短い返答はまるで会話の強制終了となり、これから会話を楽しもうと構えている目の前でガラガラとシャッターを下ろす行為に値する。
しかも根っからの話好きな人々なので会話が一言で終了するような状況に慣れていない。あーでもない、こーでもないと色々会話を楽しみたいのだ。
多少 面倒だが断る時はしっかりNoと言いつつも相手を傷つけない配慮を忘れずに!
他の「お約束」を書いた記事です。良ければ読んでください。
春の訪れ
そろそろサマータイムに変わる時期がやってきた。これでスペインとの時差は8時間から7時間となる。
しかしEUではサマータイムを2021年に廃止する法案が2019年に可決されている。
2021年って今年じゃん!
これが最後のサマータイムへの時間変更になるってことなのか?
ではその後は一体どうなるのか?
「サマータイムが廃止された後はそれぞれの国で夏時間か冬時間か好きな方を選ぶことになる」とどこかで読んだが、そんな好き勝手が許されるのだろうか?
一応近隣の国で時差が入り乱れないように調整するらしいけど、結局どうなったのだろう?
今週末に夏時間に変更になることだけはわかるのだが、それ以降のことはざっとニュース検索などしてみたが見当たらない。
サマータイム廃止後のヨーロッパの時間表みたいなものがあれば分かりやすいのにと思う。
しかし、サマータイムへの時間変更の混乱(これだけ何年もやっているのに毎回混乱する)も今回で最後かと思うとなかなか感慨深いものだ。
過去にもサマータイムについて書いたことがあるのでお暇なら読んでください。
毎回夏時間が始まると公式に「春が来ました!」と言われているようでうれしかった。でもサマータイム制度がなくなってしまったら春の訪れを知る目安がなくなってしまうのでは?と心配になったが、思い出した!スペインには親切なCMが存在するのである。
スペインに唯一存在する百貨店「El Corte Inglés エル コルテ イングレス」この百貨店のCMだ。
春になると「La primavera ya está aquí ラ プリマベーラ ジャ エスタ アキ」と春はもうここに来てるわよ!とわざわざCMでお知らせしてくれるのだ。春だけではなく夏も秋も冬も、クリスマスもお正月もだ。
別に本気で人々に季節を告げる為にCMを流しているわけではない。
ただ、人々の購買意力を高める為に季節ごとに「春が来たよ~!(だから春物買ってね~)」だの「夏だよ~!セ-ルやるよ~!(だから買いに来てね~)」だの「クリスマスだよ~!(プレゼント買いに来てね~)」とCMを垂れ流しするため自然とカレンダーのような役割を担っているのである。
「La primavera ya está aquí」と言われ春を感じ、やたらと香水のCMが増える頃
El Corte InglésのCMがクリスマスの到来を告げる。
スペイン人の友だちに「もう秋だね」と言ったら「もう?」と聞き返されたので
「El Corte InglésがYa es otoño ジャ エス オトニョ(もう秋よ!)」って言ってたもん!と言うと笑って「El Corteがそう言ってたならそーだね!」と一同納得。
日本で「冷やし中華始めました!」の張り紙が夏の始まりを告げるように、富士フィルムの「お正月を写そう」のCMが始まれば正月がやってくるように、スペインでは季節を告げるのはEl Corte InglésのCMなのだ。
因みに今年の春のEl Corte InglésのCMは一週間前から始まっているようです。
「Ya es Primavera」もう春だぜ~い!としつこい位言いまくっています!
カップル行動
スペインでスペイン人彼氏と暮らしていた頃のある昼下がり、週末の予定を彼氏に聞かれたので「夕方にMちゃんと会う約束してるんだ!」と答えると「そっか!いいね!」とあっさり会話が終了した。
ふっ!これで土曜日は思う存分日本人のMちゃんと日本語で話し倒せる!
日本語で心おきなく話せる時間と言うものは私にとってスペインで生活する上でご褒美みたいな贅沢な時間だった。
そして約束の週末になり、いそいそと出かける準備をしていると彼氏が
「今日何時だっけ?」と聞きながら身支度を始めた。
若干嫌な予感が漂うが素知らぬ顔で「どこかに出かけるの?」と聞いてみると
「Mちゃんと会うって言ってたじゃん」と行く気満々。
嫌な予感というのはなぜこんなにも的中率が高いのだろう?
あぁ、あぁ、あぁ、やっぱりそーきたか。私が悪かった。
きちんと説明しなかった私が悪うございました。
「Mちゃんに会うのは私だけ、私はMちゃんと二人きりで会いたいのだ」ときちんと言わなかった私が悪かったのでございます。
いや、いや、まてまて。そもそもなぜ説明しないといけないのだ?
Mちゃんは日本人だし、私の友だちじゃないか!
「私の友だちと会って楽しい?」と少々意地悪な質問を投げかけると
「何を言っているんだい!君の友だちは僕の友だち!しかもMちゃんはスペイン語がとても上手なんだから君は通訳する必要もないから大丈夫!」と返答される。
「友だちの友だちは皆友だち」とタモさんに耳元で説得されているかのようだ。
「世界に広げよう友だちの輪」と言われれば条件反射で「わ!」と続けてしまうが、違う違う!そうじゃ、そうじゃなーい!
そもそも私はMちゃんとスペイン語で話したくはないんだよ、日本人同士なんだから日本語で語り合いたいのだよ。
しかも語り合いたい内容の半分はおまえさんへの愚痴なんだよぉぉぉぉ、と心の中で絶叫する。
日本語で愚痴が言えるとか、日本のニュース(ワイドショーネタ)の感想を言い合うとか、昔見たCMの話とか、そーゆーくだらないことを日本語で語り合う事がどんなに私にとって癒しとなるか、おまえさん知っているのかい?
「僕だってMちゃんに会いたい!」だとぉ~このやろぉ~!黙れ黙れ!!!
私はスペインの「カップルは一緒に行動する」という考え方が苦手だった。
スペインではカップルはセットで行動することがとても多い。
パーティーや結婚式はもちろん普段の友だちとの付き合いにもセットで参加する。
大勢での集まりやカップル同士の集まりなら別にいいが、私の彼氏は相手がたとえ一人でも気にしない。そして自分が必ず受け入れられるということを信じて疑わない強靭なポジティブ思考の持ち主であった。
見習うべきなのか、見習ってはいけないのか判断に迷うところだ。
カップルだからといって誘われてもいないのについてくるのはいかがなものかと思うのだが、私の彼には通用しない。
「だって僕たちはカップルなんだから一緒に行動するのが当たり前だよ」とおっしゃるが、外国に一人でやって来たような女にそんなことを求めてはいけない。
しかし、結局、しかたがないので先に私がMちゃんと二人きりでお茶して、後から彼が合流してくるという事で話はやっとまとまった。
出来るだけ遅く来ればいいのにと心の中で思っていたことは内緒だ。
長い交際期間
ある日会社で雑談中に「この前別れた彼氏と連絡を取っているのか?」と聞かれたので
「連絡一切してないし、取るつもりもない」と答えると「へぇ~」と少々驚いた顔をされた。
「じゃぁ、逆に聞くけど、あなたは元彼と連絡取ったりしているの?」と聞いてみると
「元彼なんていないもの。初めて付き合った人が今の旦那」と笑顔で返された。
「元彼が存在しない」
「最初の彼氏が今の旦那」
日本で最初の彼氏と結婚した知り合いを一人も持たない私にとって、この回答はかなりの衝撃だった!
私がマドリードで働いていた会社は10代後半から60代までの各年代のスペイン人女性がいたが、既婚者の大体が10代で知り合った人と結婚していた。
なかなかな確率である。
大抵学生時代に知り合い(大体近所)10年ほど交際して結婚する。
10年の交際期間なんて普通らしい。
24歳の同僚は14歳の時から付き合っている彼との間に子供が生まれ一緒に暮らしているものの結婚はせず事実婚をしている。(その後二人目が生まれた後、交際15年で正式に結婚した)
「元彼なんていないもの」と言っていた同僚は付き合い始めたのは16歳だが、小学校から知っている人と結婚している。
10代での恋愛が人生を決める重大なターニングポイントになっているとは驚きである。
十代後半ならともかく、中学生や小学生で好きになった子と添い遂げるなんて!
奇跡だ。
小学生なんてまだ洟垂れ小僧ではないか。
そんな洟垂れ小僧に人生託せなかった私は今尚、誰にも人生を託せず独りでいる。
そーいえば、私の大好きなBSの番組「小さな村の物語 イタリア」でも幼馴染と結婚した老夫婦がよく登場する。
あちらでは私が奇跡だと思っていることが日常のことなんだとしみじみ考えてしまう。
13歳の息子を持つ40代の同僚が「最近息子とやたらと一緒にいる同級生の女の子が将来嫁になったらどうしよう」と悩んでいた。
「うちの息子は大人しくて優しいから、あの子にぐいぐい引っ張られて押され、そのままずるずる交際して結婚しそうで怖い」と言っていたが、十分ありえる話だ。
他人の私でさえ息子の将来が簡単に想像つく。狙った獲物は逃がさないたくましいスペイン人女性に一度目をつけられてしまったら、そう簡単には逃れられない。
しかも一度付き合いだすと長いので、出来るなら未然に防ぎたいのだろう。
息子13歳にして将来の嫁の心配をしなくてはいけないなんて、母も色々大変だ。
「一度付き合いだすと長い」とはどういうことかというと、なかなか別れないからである。
私の見解では、別れにおける沸点が異常に高いのだ。
日本だったら(私の過去を参考にすると)「これ別れてますけどレベル」の問題にぶち当たっても別れない。
ケンカと別れは別問題らしい。
ケンカの解決策が別れではないということをスペインに来て初めて知った。
しかも、付き合いだすと両家を巻き込んでの関係になるため、たかがケンカぐらいで別れたりできない。彼のお母さんから電話が来たり、お姉さんから電話が来たりとなかなか面倒なことになるのである。
家族ぐるみ。そう、まさしくこれが別れのハードルを上げている最大の原因なのだ。
しかし、こんなことを言っても、スペインにおける離婚率は実は意外と高い。
2017年の統計だと100組のうち57組が離婚しているらしい!
どこの統計かは知らないが驚愕の数字である。
これでは別れのハードルが高いんだか低いんだかわからない。
興味深いのが、若いときから10年以上付き合って結婚し、子供が出来てすぐ離婚するパターン。
意外とよく聞くパターンだが、なぜこのタイミングで???といつも不思議に思う。
結婚する前は別れないのに、結婚すると離婚する。
まぁ、当事者にしか分からないことがたくさんあるのだろうし、それぞれ事情があるのだろう。
地域や世代によって状況は変わる。
私が見聞きしたことが全てではないだろうが、平均的に交際期間が長いのは事実だ。
それが良いのか、悪いのか?それはまた人それぞれ…
ロンドンのチャイナタウンとスペインの中華
マドリードに住んでいるとスペイン国内はもとよりヨーロッパ各地へ簡単で安く(日本から比べたら)旅行できる。マドリードからロンドンまで飛行機で約2時間半。なんという近さ!
そこで週末を利用しロンドンへ当時の彼氏と一緒に出かけた。
ロンドンで必ず行きたいところがチャイナタウンだった。
何故かというと、美味しいちゃんとした中華料理が食べたいからである!
スペインには正式なチャイナタウンがない。
スペインにもたくさんの中国人が暮らしているのだが、中華料理店が多く並ぶ界隈や中国商店がたくさんある地域などはあるものの、それは決して横浜中華街のようなものではない。
そして、スペイン各地にある中華レストランの中華料理はスペイン人向けになっていて本場のそれとは随分味が違う。
どこの中華レストランでも必ずある「Arroz frito tres delicias」これは五目チャーハンのことだと思うが、なぜか三目チャーハンになっている。しかも使っている具材はどうみても冷凍のミックスベジタブル。もうチャーハンではなくピラフだ。
しかし偉そうなことを言っているこの私も、本場の中国で中華を食べていないので実は横浜中華街も本場の人からすれば日本風の味付けとなっているのだろうが、それでもスペインの中華よりよっぽど本場に近いはずだ!
スペインで生まれ育ったため、中華料理と言えばスペインの中華レストランの料理だと思い込んでいる彼に、是非本場に近い中華料理を食べさせてあげたい!
これが私のロンドン旅行最大のミッションであった。
「食べ物がまずい」ことで有名なイギリスだが、逆にさまざまな人種が入り乱れる国際都市のため外国料理のレベルは高い。
自国の料理は天下一品にも関わらず、他の国の料理となると突然レベルが低くなるスペインとは真逆だ。
さっそく中華街へ向かうとそこはもう別世界。もうね、いちいちオシャレです。
ロンドンってやっぱり都会だわぁ~と感動。一応私たちもスペインの首都から来てるんですけどね、マドリードとは格が違います。
中華料理店だけでなく美味しそうな日本料理店もたくさんある。どこに入ろうか目移りしてしまう。
事前に調べていたレストランに入ると、オシャレな中国人ウェーター君が席まで案内してくれた。
失礼を承知ではっきり言うが、このレベルのオシャレ中国人をスペインで見つけるのはとても難しい!
ロンドンでたくさんの中国人を観察したが、みなさん垢抜けていらっしゃる!
残念ながらスペインに移住している中国人さん達とは決定的に何かが違うのだ。
スペイン人の彼もオシャレ中国人ウェーター君に「Hi!」と言われ、びびっている。
そしてついにスペイン中華以外の中華料理を初めて口にすると
「な、な、なんて美味しいんだ!今まで食べていた料理はなんだったんだぁぁぁぁ!」と感動する彼氏。よかった、ロンドンまでつれてきた甲斐があった。
「どうだ!これが本場の中華だ!まいったか!」と私はなぜか中国代表気分で得意げになる。
オシャレウェーター君にレベルの高い中華料理。彼の中で中国の株が急上昇で上がっていったロンドンの昼下がりであった。
実は、マドリードにも美味しい中華レストランは存在する。
火鍋は日本でブームになる前からマドリードで食べれたし、台湾系移民の友だちが教えてくれるレストランはいつも本当に美味しかった。
しかし、そんな美味しい中華レストランでもスペイン人たちがオーダーするのは定番のスペイン風中華だ。食べ物に関して保守的なスペイン人たちはなかなか知らない料理に挑戦しない。そのため、どんなに美味しい中華レストランでも一応定番のスペイン風中華のメニューが常備されている。
中華レストランで働く中国人が食べに来る(築地で働く人が食べに行く寿司屋みたいな)人気の火鍋店で食事をしていた時、中国人も日本人も火鍋を食べている横でスペイン人がArroz frito tres delicias(三目チャーハン)と春巻き(これもスペイン定番のやたらとキャベツが入っている巨大な春巻き)を頼んで食べていた。美味しい火鍋の横でなんとも残念なメニューだ。
あの彼がいつか火鍋にたどり着く日がやってくるだろうか?
しかし、あのスペイン風中華料理もスペインを離れた今となっては無性に恋しいスペインの味の一つとして私の記憶に残っている。
冬のイビサ島
イビサは世界一のパーティーアイランドとして有名な地中海に浮かぶ小さなスペインの島。
ぱーてぃーぴーぽー達がバカ騒ぎしているイメージ映像を見るたび、自分とは無関係の一生行くことのない島だと思い込んでいた。
しかし、友だち夫婦がイビサへ引越したと聞いて突然興味が沸き、とある冬の週末にプチ旅行に出かけた。
友だちにはこの時期のイビサに来てもクラブとか開いてないよと言われたが、イビサのクラブに興味がない私には
「クラブが開いていない=ぱーてぃーぴーぽー達がいない=安全」
と逆に魅力的に見えた。しかもシーズンオフなのでマドリードからの飛行機代も宿代もかなり安い。いいことずくめである。
シーズンオフだろうと海は海だ。しかもイビサは島全体が世界遺産。世界遺産に夏も冬もない!
ホテルの部屋のバルコニーからの海の眺めは最高だし、ビーチも散歩している人がまばらにいるくらいで丁度いい。
友だち夫婦に案内してもらってイビサの旧市街地やイビサ城を散策し、地元の人で賑わうレストランでお昼を食べる。
もうこの段階で私はすっかり冬のイビサに魅了されている。
旧市街地の町並みはアンダルシア地方を思い出させる白い町並みで、イビサ城から眺める海はどこまでも果てしない。観光客がほぼいないとはいえそこには生活があり、人々の人生がある。
パーティーアイランドなんて肩書きがなくてもとても魅力的な島だ。
夕方は日没を見るため島の西まで移動し、チルアウトで有名なカフェデマールまで足を伸ばすものの残念ながらシーズンオフのため閉まっていた。
しかし店は閉まっているものの、日没を眺める店の前のベンチは空いている。
チルアウトの音楽はないが、貸切状態で夕日を独占しなんとも贅沢な時間を過ごす。
すっかりご機嫌な私は次の日、突然イビサの隣にある小さな島フォルメンテーラ島に行くことにした。
フォルメンテーラを満喫したいなら朝一番にフェリーに乗るべきだろうが、優雅に朝食を食べている時に思い立ったのでしょうがない。
結局フォルメンテーラ島に着いたのは12時を過ぎていた。
案の定、観光シーズンには稼動しているバスも運行していないし、タクシーもいない。車や自転車のレンタル店は何軒か開いているだろうと思っていたが、開いていたのはしょぼくれた自転車のレンタル店一軒だけだった。
電動自転車はなく、日本のママチャリのような自転車のみ。
それでもレンタルできただけましだ。
この島にはとても綺麗なビーチがあるらしいが、せっかく自転車を借りたので島の端にある灯台まで行くことにした。
大人三人でひたすら自転車を漕ぐ。
道路が狭いので一列になり、ただただひたすら自転車を漕ぐ。
おしゃべりも出来ず、音楽を聴く道具も持ち合わせていないため、のどかな観光というより部活動のようだ。
無駄にアップダウンの激しい道のりに加え、海岸沿いの道ではないので景色もまるで変わらない。
ただただひたすら続く地獄の一本道。
目指す灯台は確実に見えているのに、たどり着くまでが長い。
来たことを深く後悔しかけた頃、やっと灯台にたどり着く。
灯台自体はシンプルで至って普通だが、そこからの眺めは最高だった。
そして友だちが地元の人から教えてもらったという洞窟に繋がるほら穴を降りると
「なんということでしょう!」さらに絶景が待っていました。
気持ちよく降り注ぐ太陽の光と、どこまでも真っ青な海。誰もいない秘密基地。
必死に自転車を漕いできた甲斐があります。
あの同じ一本道をまた漕いで帰らなければ行けないことをしばし忘れ絶景を楽しむ。
脚は限界だが仕方ない。こんな景色を見たからには文句が言えない。
翌日といわず、その日の夜には既に筋肉痛になり遊びに行ったボーリングのスコアは散々だったが、冬のイビサ旅行は当初の予想を遥かに超えた大大大満足な旅行となった。
シーズンオフだったからこそ味わえた秘密基地感。
シーズンオフだったから車も電動自転車も借りれず苦労して味わえた達成感。
空港が閑散としていようと、クラブが全て閉まっていようと、交通機関さえ運休していようと冬のイビサにはとてつもない魅力があった。
その後何度も冬のイビサを訪れることになり、とうとう夏のイビサにも挑戦するほどイビサ大好き人間と化したが、やっぱりイビサは冬がいい。
満天の星空、ヒッピーだらけの村、不思議なパワーを発しているエスベドラ島など、まだまだたくさん書きたいことはあるが、またの機会に取っておくことにする。