スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

スペイン時間

スマートフォンがスペインに普及するまでの間、日本ではiモードを使って携帯でもネットが使える状態だったが、スペインでは所謂ガラケーと呼ばれるシンプルな携帯電話のみだった。(当時ノキアのシンプル携帯を使っているスペイン人に日本の携帯を説明したところ、「さすがドラえもんの国から来た人だ!」と尊敬された)

 

携帯電話の時刻でさえ自分で設定していた様な時代、スペインにおいて正確な時間を知ることはとても難しいことだった。

かろうじてニュース番組ではテレビ画面の上のほうに時刻が表示されていたが、一歩外を出るとそこはもう無法地帯。まず、日本と違って外に時計が少ない。バス停に表示されている時刻は各バス停で違う時刻を示し、乗り込んだバスの中の時計の時刻も違う。スペインの時刻表はバスもメトロも「5分から10分ごと」とか「7分から15分ごと」と表示されているだけだし、何分後に来ると表示された電光掲示板もいまいち信用できない。「あと三分」と表示されていたのに目を離したすきに「あと五分」に変わったりするのだ。広場の時計もあまり信用できないし、教会の鐘はよくわからない時に鳴ったりする。腕時計をしている人も少なかったし、していてもみなそれぞれ好き勝手な時刻を刻んでいた。

 

そんな中一番混乱をきたしていたのが「サマータイム」の開始時と終了時。

毎年3月最終週末と10月最終週末に時間が変わるのだが(2021年でサマータイム制度は廃止される予定)3月は土曜日の夜中の二時(日曜日)に時計を一時間進めて、10月は時計を一時間戻す。一応当日のニュース番組で「今日の夜サマータイムになりますよー」とか「今日でサマータイム終わりますよー」とお知らせしてくれるのだけれど、毎回「どうやるんだっけ?」「時計を進めるんだっけ?」「ってことは一時間損するの?得するの?」とまぁみんな混乱する。

私が働いていた職場では毎年2回毎回この会話が繰り広げられていた。スマートフォンになってからは携帯電話の時刻が自動で変わるのでとても便利になったが、昔は手動で全て変えていたので変わった日の翌日は毎回誰かしら時間を間違えていたりしていたし、街中の時計も思い思いにばらばらだった。

 

私は特に10月のサマータイムの終了の週末が好きだった。土曜の夜中皆でバルで飲んでいても二時になったら時計が一時に戻りなんだか得した気分になってまた飲みなおせるのである。この日はいつもより一時間夜が長いのでついつい夜更かししてしまう。反対に3月のサマータイム開始時はいつもより睡眠時間が一時間減るので朝が辛いが、前日まで暗かった起床時間が明るくなっていて夏の始まりを感じられるので眠くても頑張れた気がした。

 

でも一番混乱していたのは我が家の犬かな。人間が勝手に作り出したサマータイムのせいで年に二回朝の食事の時間が変わり、毎回不服そうだったのが懐かしい。

 

「スペイン人=時間にルーズ」というステレオタイプについて一言言わせてもらうと、これはスマートフォンが普及する前の皆がそれぞれの時間を刻んでいた頃に定着したイメージではないだろうか?

しかもその当時ですらスペイン人みながみな時間にルーズというわけではなかった。

確かに日本でスペイン人に3時間待たされたことはある。(スマートフォンの普及後だったけど。。。) でもだからと言って「スペイン人=時間にルーズ」とは一概に言えないと思っている。時と場合、待ち合わせの仕方で全く変わるのだ。

私の経験上、一対一で外での待ち合わせの場合10分以上待たされたことはないし、職場や学校も一応時間通りだし(日本に比べると若干の誤差はあるが)終業時間に関しては驚くほど正確だったりする。

しかし、複数人数で待ち合わせしている時や、集合が誰かの家だったりするととたんに皆ルーズになる。自分ひとりが遅れても他の人も居るという安心感がそうさせるらしい。家で行うパーティーにいたっては主催者が「20時から」といったらからといって20時に行く人はほぼいないし、時間より早く行くなんてご法度だ。20時からなら20時に行っても準備が出来ていないだろうから少し遅れていくのが礼儀ぐらいに思っている。一番乗りを極端に嫌う傾向があるのだ。

 

映画館や劇場、サッカー観戦なども皆ぎりぎりまでバルで飲んだりおしゃべりしている。日本と大きく異なるのは映画や試合が終わった後だ。映画は終わるや否や皆そそくさと出て行く。エンドロールなんて誰も見ていない。

サッカーの試合も勝敗が明らかな場合終了の笛を待たずにぞろぞろと出て行く人が続出する。試合後の余韻なんてスタジアムで味わう暇はない。スペイン人のことだから終わった後もぐだぐだ話したりするのかな?なんて思っていたのだが酒のないところではぐだぐだしないらしい。

時間の使い方、流れ方が日本とは全く違うのだなと感じる一幕だ。

 

終了後にあっさり出ていくくせにパーティーでの引き際は異常に時間がかかる。

帰ると決めたらお別れのベソをしながら「もう帰るね」と報告してゆくのだが、「もう帰るのか」と引留められたりしているうちに「あ、そー言えば」などと違う話が始まる。これを参加者全員と繰り広げるのだ。またすぐ会うメンバーなのに。。。帰りたいと思ってから本当に帰れるまで30分はかかる。

なので、先に帰りたいときは時間に余裕をもって一時間前ぐらいから「帰りまーす」を小出しにしていくのがベストです。