スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

いつか

やらないとわかっているが、やってみたいなと思うことがある。

それはカミ-ノ・デ・サンティアゴ(サンティアゴ巡礼)だ!

スペイン北西部にある聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す巡礼の旅。

私はキリスト教ではないけれど、それぞれの事情を抱え黙々と聖地を目指して巡礼する人を見聞きするととても心惹かれるのだ。

 

興味があるのでサンティアゴ巡礼に関する本を読んだり、ブログを読んだりする。

そして「あぁ、私も歩いてみたいな」と思うと同時に「私には絶対無理だな」と強烈に思うのだ。

 

サンティアゴ巡礼を歩いた巡礼証明書を発行するためには最低でも100キロ歩かなければならないのだが、本やブログで読んだ限り100キロなどとセコイ距離ではなく皆もっと長い距離を一ヶ月とかかけて巡礼している。一番巡礼者が多いと言われているのはフランス国境付近から始める「フランス人の道」全行程なんと760キロ!

スペイン人はもとより世界中の人がそれぞれのペースでそれぞれの思いと共に歩き、一期一会の出会いがあったりハプニングがあったりしながら聖地サンティアゴに到着する姿は神々しい。

 

しかし、私は歩くのが嫌いだ。

こんな発言をしてしまった時点でもうすでに巡礼する資格がない。

 

巡礼者たちは必ずと言っていいほど足にマメができたり肉離れをおこしたり満身創痍になる。トレーニングをして準備をしてきた人でも満身創痍になってしまうのなら、私のようなへなちょこが行ったらどうなってしまうのだ!

そしてさらに問題なのは泊まる場所だ。

巡礼者たちが泊まるという宿は隣の人のイビキが凄くて眠れなかっただとか、ダニに刺されて大変だったとか、昼過ぎに着いたら既に満室で隣の町まで歩く羽目になっただとか、シャワーの争奪戦とか洗濯物を干す場所の争奪戦とか20キロも歩いてからもなお戦わなければいけないなんて読んでいるだけで疲弊する。

 

しかし、巡礼に行った方々はこんな苦労が勲章だと言わんばかりに惜しげもなく苦労話ばかりを書き連ねる。

そして苦労やハプニングが多ければ多いほど読み物として面白い。真面目な話より面白い話が好きなので結局ハプニング満載のサンティアゴ巡礼の旅の本やブログばかり読む羽目になり、「私には無理だな」という結論に達するのだ。

 

やりたい気持ちよりやりたくない理由の方が圧倒的に多い巡礼の旅だが、実は巡礼していないのに最終目的地の聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂には行ったことがある。

友だちを訪ねてサンティアゴ・デ・コンポステーラへ行った時、街を散策していると巡礼者らしい人たちがチラホラ歩いていたのでなんとなくついて行ってみるとそこが大聖堂だったのだ。

 

その頃はサンティアゴ巡礼に関してあまり興味がなかったのでよくわからないまま大聖堂に入っていったのだが、中にはたくさんの巡礼者たちがいてミサが行われていた。

天井から吊るされた巨大な香炉(なんと80kgもあるらしい)が振り子のように振られ香の匂いが教会を包むと周りにいた巡礼者たちは感慨深そうにしていた。

 

私は儀式に感動しながらもズルしてここにいるような、何とも言えない居心地の悪さを感じた。周りの皆が何キロも歩いてやっとたどり着いた聖なる地に私はひょいと電車で来て散歩のついでにたどり着いてしまったのだ。しかもこの巨大香炉の儀式は特別な日しかしないのに、たまたま来たらやっていたというなんともラッキーな展開。

 

なんの苦労もなくこの場にいる私がこんなに感動する儀式なら、苦労した末にこの聖地にたどり着いた巡礼者たちが感じている感動はどれほどのものだろうかと思う。

これが私がサンティアゴ巡礼に興味を持った瞬間だ。

いつかそっちの立場になってこのミサに参加してみたいなと思った。堂々とヤコブの像にキスできるように。

 

760キロは無理でもせめて100キロ。

へなちょこなのに苦労話だけはいっちょ前なハプニング満載のサンティアゴ巡礼の旅ブログをいつか書ければいいなと思う。