美容院難民
スペインで暮らす日本人は誰しも一度は美容院問題にぶち当たる。
失敗される、満足な出来にならない、イメージが伝わらないなどなど、みんな色々と苦労する。
クセ毛が多いスペインでは日本人の真っ直ぐな髪は切りづらいらしい。
スペイン滞在も半年を過ぎた頃、そろそろ美容院に行きたいなと思い始めたが美容院に関していいうわさを耳にしない。
日本人の男友達はいつも変に刈上げされたり、変なもみあげにされて美容院から帰ってくる。
彼は果敢にも毎回色々注文をつけてみるらしいが、上手くいかないようだ。特にもみあげの処理について多いに不満を持っていた。
彼がもみあげぱっつんで帰ってくるたび、女でよかったと思ったものだ。
どの美容院に行こうかと迷っていたら学校の先生が友だちの美容院を紹介してくれた。
やっとスペイン美容院デビューが果たせる。
しかも先生が一緒に付き添ってくれるというので安心安心。久しぶりの美容院に私のテンションも上がる。
美容院へ私を送り届けたら帰るものだと思っていた先生は私の横の席を陣取り美容師と話続けていた。
カットをし、髪を洗い、セットが終わるまでずっとだ。
髪を洗ってもらっているとき背中まで水が入ってきたが何も言えない。
そして私は美容院に入った時とたいして変わらぬ姿で美容院を後にした。
背中が多少濡れているだけである。
確かにあまり切らないでとは言ったが、ビフォーアフターがまるで変わっていなかった。もちろん誰にも美容院へ行ったことに気付いてもらえない。
とても微妙な中途半端な美容院デビューとなってしまった。
なんだかすっきりしないものの、スペインの美容院もそこまで酷くないことがわかったので今度は他の美容院へ行ってみたくなった。
そんな時、友だちが美容学校の経営する美容院とやらを見つけてきた。
実習生がカットを担当する格安コースがあるという。要は練習台だ。
私の担当になったのはスペイン人の男の子で、席についた私を見て明らかに動揺していた。
前回の美容院で「3㎝カットで」とオーダーしたら本当に3㎝しか切られず、誰にも気付いてもらえなかったので今回は「5㎝カット」とオーダーしてみる。
私の隣に座った友だちを担当したのはいかにも美容師見習いです!風の女の子で手際がいいのだが、私の担当君はいつまで経ってもぐずぐずしている。
はさみを動かす手もおどおどしている。
「これははずれを引いたな」と私も思ったし、きっと彼も思っているのだろう。
すると彼は切ることを諦めたのか櫛で梳かすばかりで一向に切ろうとしなくなった。
どうするつもりなのだろうか?としばらく観察していると、彼が
「先生にやってもらおう作戦」に出たのだなと気付いた。
見回りしている先生に熱い視線を送り「こっちにきて」と念力を送っているようだ。
彼の念力が功を奏し先生がやってきた。
「全然切れてないじゃない!」と怒りながらも「こうやるのよ!見てなさい!」と右側だけ切り始め「はいっ!こーやって同じように左側も切りなさい」とあっとゆーまに去って行ってしまった。
「先生~行かないで~、このまま置いていかないで~」と心の底から思ったが無情にも先生は戻ってこない。
腹をくくった担当君が意を決して左側のカットを始める。
ダメだ。このままでは右と左で仕上がりが違う斬新なアシメトリーヘアーになってしまう。そんな攻めた髪型なんてオーダーしていないのに。
困ったことになったと考えている矢先、担当君の手が再び止まった。
今度は泣きそうだ。その顔を見た私が泣きたい。明らかに何かやらかしてしまった顔をしている。
結局見かねた先生が戻ってきて最後まで仕上げてくれたが、5㎝カットとオーダーした髪は10㎝カットとなっていた。
彼の失敗をごまかすためにどんどん短くなってしまったのだろう。
アシメトリーカットになるよりはましだが、残念な結果だ。
その後、担当してくれた彼はどうなったのだろうか?無事に美容師になれただろうか?彼が美容師をあきらめるきっかけに自分がなっていないのを願うばかりだ。
ATM パート2
最近日本でも何かと問題になった銀行のATMの不具合。
実は私の記念すべき第一回のブログのテーマがその名もずばり「ATM」だった。スペインで経験した「カード吸い込まれ事件」について書いてあるので、興味のある方は読んでください。
みずほ銀行は不具合にあった人に「おわびの品」を配ったというニュースを見てさすが日本!と関心した。
こんなに大規模な不具合ではないにしろ、スペインではATMの不具合なんて良く起こる。
ATMでお金を下ろせないことがたまにある。
口座に残高が残っているのにも関わらずだ。
しかし同じカードで違うATMで試してみると普通に下ろせたりする。磁器の問題だろうか?それとも相性の問題だろうか?などと頭を悩ませるが、よくわからない。
ある週末の夜、友だちがお金を下ろしたいのでATMに付き合ってくれと言うので同行した。
飲み代を下ろす人たちが列を作るATM。
しかし、突然ATMをいじっていた人が後ろに並んでいる人たちに何かを言ったと思ったら列に並んでいる人たちがさーっと他へ移動した。
何が起こったのか友だちに聞くと「ATMの中のお金がなくなったから、もうこの機械では下ろせないみたい」とのこと。
「あっちのATMに行こう!」と場所を変えるとさっき同じ列に並んでいた人が私たちに向かって「このATMもダメみたい!」と情報をくれる。みんな揃ってぞろぞろとATM難民だ。
友だちは「週末だからね」と笑って肩をすくめたが、いやいやいや、週末だからこそ下ろせないと困るんじゃないのかい?一台だけならまだしも二台も三台も機械の残金ありませんって、これ普通なのだろうか???
お金がなくてATMに行ったのにそのATMにお金がない。
機械自体に残金がない為に取引が出来ないなんて状況、日本でもあるのだろうか?
遭遇したことも聞いたとこもない。しかも、スペインの若者が週末に引き下ろす金額なんてたかが知れている。二千円とか、三千円とか五千円だ。デビットカード払いが普通なので現金はそんなに必要ないのだ。
こんなに小額しか下ろさないのにATMの残金がすぐなくなるって、一体いくら準備してんだよ!と突っ込むと、「ATM壊してお金を取る泥棒とかもいるから、そもそもあまりたくさん準備してないんじゃないかな?」と返され妙に納得。
なーるほどザワールド!そーゆーことか。
私が前にATMでお金が引き出せなかったのもそーゆーことだったのだ。
ATMで衝撃を受けた事件がもう一つある。
2006年のとある週末にla caixaという銀行のATMでお金を入金するという友だちについて行ったのだが、入金金額を画面に入力したと思ったら、ATMの横にある封筒を手に取り封筒の中にお金を入れ機械に入れたのだ!
「封筒ごと機械に入れる」なんて!なんて斬新なやり方。衝撃過ぎてしばらく口がふさがらない。本当に大丈夫なのだろうか?
「月曜日に銀行員がATMの中から封筒を取り出して、お金を数えて口座に入金するのよ」と平然と説明されたが、21世紀にもなってそんなやり方があるだろうか?
ATMの機械に入金するのに結局手作業で数えるなら、もう入金は営業時間内の窓口のみにすればいい。
いや、いっそうのこと、機械じゃなくて入金ポストでも置いておけばいいじゃないか。
私だったら心配すぎてこんなATMに入金なんてできない。
私の銀行じゃなくてよかった。
私の銀行のATMは入金したらちゃんと機械がお金を数えてくれる。
そんな当たり前のことがありがたく思えたスペインのとある昼下がりの出来事であった。
Netflixのスペインドラマ
Netflixに支配される生活を送るようになって既に一年以上になる。
スペインのドラマも見ることが出来るので勉強と称してNetflix中毒の罪悪感を少しでも減らす。
Netflixのいいところは再生速度を変えられることだ。
0.5、0.75、1、1.25、1.5の速度で再生できる。
時間がない、ちんたら見たくない人用に1.25、1.5倍速再生があるのは理解できるが、0.5、0.75のスロー再生は何のために必要なのだろうか?と初めの頃は思っていた。
しかしこの0.75スロー再生機能は早口スペイン語をきちんと聞きたいときに大いに役立つ。
スペイン語でドラマを見ているとき「はい?今何ておっしゃいました?」ってことがよくあるが、こんな時は0.75スロー再生をすればはっきりと何を言っているのか聞き取れる。
なんて便利な機能なんだろうか。
0.5スロー再生だと不自然さが半端ないが、0.75はなかないい。お勧めです。
せっかくなので私の大好きなNetflixスペインドラマ4作品を紹介してみる。
概要や解説、あらすじなどは他の人に任せて、個人的な感想のみにしますのであしからず。
- ペーパーハウス/La casa de papel
スペインドラマ史上これほど全世界で見られたドラマは他にないのではないだろうか?こんなに成功するとは当の本人たちでさえ想像していなかったらしい。
とにかく面白い。面白いに尽きる。
万人受けするエンターテーナメントとしてきちんと成立している。
しかし、オーシャンズイレブンのように全員がプロフェッショナルな完全犯罪集団にはなりえない所がまたスペイン。
そこがまたいい。人間味溢れ過ぎて若干イライラするぐらい。
「おいおい!ちゃんと計画通りやりなさい!」
「恋愛している場合じゃないでしょう!」と突っ込みどころ満載です。
私の中のイライラ・ランキングのベスト3を上げるとこうなります。
1位 主人公だと思われるストーリーテラーの【トーキョー】(強盗団のメンバーは世界の都市名をあだ名を使っています) とにかく勝手。「おいおいおい」と何度つぶやいたことか。
2位 人質の【アルトゥーロ】「黙れおっさん!」と何度も何度も思った。
3位 警察のネゴシエーターの【ラケル】こんなに情緒不安定なネゴシエーターいます?個人的な家庭問題多すぎます。
こんなにイライラしちゃうのに面白いってゆー所がこのドラマの魅力。
パート2になると不思議とイライラがどんどん愛着に変わっていく。そして気付いた時にはどっぷりとはまり抜け出せない。
ドラマとしてはパート1,2で一回完結するがパート3,4まで続いて視聴可能。
パート4が見終わった時の衝撃ったら、そりゃーもう凄かった!早くパート5が見たいと思っていたが、パート5で完結と発表されているので、早く見たいような、まだ終わりたくないような複雑な心境だ。
- パキータ・サラス/Paquita Salas
ペーパーハウスとは打って変わって、こちらはちょっと変り種。
万人受けはしないかもしれないけど面白い。
パキータの経営するタレント事務所を舞台にしたコメディ+人間ドラマ。
主役のパキータ役の俳優さんはなんと男性!しかし、まったく無理なく中年女性に成りきっている!(自分と同じような年代の人に向かって中年と書くのに抵抗があるのだが中年なんだから仕方ない)
このドラマ、ただのコメディだと思ってはいけない。
時代の流れに食らいつく刹那さや、必死に生きる女性のたくましさなど意外にも心を打つ場面がたくさん出てくる。
もちろんコメディとしても最高で、毒舌のパキータの弾丸トークは最高だし、秘書のマグイの天然っぷりは面白い。
1話30分弱でシーズン3まで合わせても16話しかないのであっとゆー間に見終わってしまう割りに異様に心に残る大好きな作品だ。
是非続編を作ってもらいたい。
- エル・ベシーノ/El vecino
特殊能力を持つスーパーヒーロー物なんだけど、ヒーローがへなちょこで笑える。
安心してお気楽に楽しく見ることが出来るドラマ。
スペインのマドリードが舞台で(ちなみにペーパーハウスもパキータもマドリードが舞台ですが、、、)時代背景も現在なので、このドラマを見ていると普通にマドリードの友だちの会話を聞いているような、そんな錯覚を覚えるドラマ。
スーパーヒーローという非日常的なドラマなのに、マドリードの日常のリアルさが日本に帰国した身には懐かしくてたまらない。
シーズン2の撮影がコロナの影響で随分遅れているが残念だけど、パワーアップして早く帰ってきて欲しい作品。
こーゆーくだらないスペインドラマ大好きです。
- エリート/Élite
学園サスペンス。ウィキペディア日本語版では「エロティック・学園サスペンス」
何故わざわざエロティックと書く必要があるのか?
「エロシーンがあるぞ!子供に見せるな!」と注意のつもりなのか、
それとも「エロシーン満載でっせ」と煽っているのかわからない。
舞台はセレブが通うスペインの私立高校。ペーパーハウスでも大活躍の俳優が3人も出てくるのでペーパーハウス好きにはたまらない。
サスペンスもなかなか良く出来ているし、貧富の差や、人種問題、ドラッグ、宗教、同性愛など社会のあらゆる問題も盛り込まれ見ごたえたっぷり。
が、が、が、私がこのドラマで一番気になるのはスペインの高校生の生態だ。
なぜなら私には勝手に姪だと思って可愛がっている友達の子供がスペインにいるのだが、彼女はそろそろ中学生。高校生になったらこんな風になってしまうのか?!と叔母さんは気が気ではありません。ドラマに集中している間はいいものの、見終わった後に「あの子も、いつか、、、、」なんて思いにふけり複雑な心境です。
高校生の娘を持つ人にはお勧めしませんが、スペインのゴージャスなセレブ高校生の生態が知りたい方は是非どうぞ!
カレールー
日本は「いかに簡単に」「いかに楽に」「いかに短時間で」出来るようにと改良に改良を加えた商品で溢れている。
「日本って凄いね」とよく言われるが、私は
「日本人は面倒くさがり屋ばかりで、その面倒をなくすために一握りの人が頑張って開発している」だけなのではないかと思っている。
怠け者の私たちのために、快適に暮らせるように全力で取り組んでくれているのだ。
サランラップの切れ味や、袋の開けやすさなどありとあらゆる所に快適を求め追及する日本。
スペインの場合、便利になるための努力を誰もしてくれない。
「便利=良いもの」と思っていないのが原因なのかは知らないが「別にこんなところで急いでどうするんだ」「あったら便利だけど、なくても困らない」と面倒な事柄をしれーっと受け入れる懐の深い国民性なのだ。
このせいでスペインの洗濯機はいつまで経っても長時間回っているし、ガスレンジの火は自動で点いてくれない。(ガスをひねってからマッチやライターで火をつける)
超絶快適な国日本からやってくると初めは至る所で不便を感じる。
切れないラップにイライラし、永遠に終わらない洗濯機を壊してやりたい衝動に駆られる。
が、そのうち「まぁしょうがない」と諦め徐々に適応していく。
不便さを受け入れることができるか否かが海外で暮らせるかどうかのボーダーラインなのだ。
確かにラップが毎回きれいに切れなくても死にはしない。
ある日スペイン人にカレーを作ってあげたらとても気に入ってもらえた。
レシピを教えてくれと言われたので教えると、「カレールー」とは何だと聞いてくる。
「カレーを作るためのルーです。日本食材店で売ってるよん」と言うと
「そーじゃなくて、カレールーはどうやって作るのよ?ルーをわざわざ買わなくたって出来るでしょ?」と言ってくるではないか。
そんなことを言われても私には「悪いことは言わない。このカレーが食べたいならば素直にカレールーを買いなさい」と突き放すしか出来ない。
なぜなら私はカレールーなくしてカレーを作ったことがないからだ!
そういえば日本にはカレールーをはじめシチューのルーだの、回鍋肉の素だの、鍋の素だの、ありとあらゆる料理の素が売られている。それさえ使えば時短にもなるし料理が下手でもそれなりに出来上がる魔法の素だ。
味の決め手となるソースもたくさんあるし、レトルトや冷凍食品のレベルは世界一。
料理が得意でない人間にとってこんなにありがたいことはない。
しかしスペインではあまりそーゆーものがない。
ソースの種類も日本に比べるとグッと少ない。マヨネーズやトマトソースはたくさん売っているものの、家庭でその都度手作りする場合も多い。
レトルトとか冷凍食品もたくさんあるが、手料理のレベルを超えるものにはなかなか出会えないのだ。
「手料理の味を超えよう!」なんて企業努力も見当たらない。
もしかしたら手料理の味を超える気なんてさらさらないのかもしれない。
したがって忙しい平日は冷凍食品でやりくりしても、家族が集まる週末になると時間をかけてじっくり美味しい手料理を作る家庭が多いのだ。
手料理が一番美味しいスペインと、手料理を超えるクオリティの加工食品を有する日本。
どちらがいいのかはわからないが、日本の冷凍餃子とかレトルト食品の開発者の情熱と探求心をテレビで見るたびに、この情熱を他の所に向けたらいいのにと心で思う。
初めてのスペインサッカー観戦
私が初めてスペインで見たサッカーの試合は当時住んでいたセビージャのチームの
セビージャにはベティスとセビージャの二つのチームがあるが、富裕層のファンが多いセビージャに対してベティスのファンは労働者階級層が多い。
そしてこの二つのチームをめぐってセビージャの街は真っ二つに分かれる。
セビージャダービーと呼ばれる「ベティス」対「セビージャ」の試合の日は街中ピリピリした空気が流れるほどだ。
「ホアキンがいる」という理由だけでベティス派になった私だが、本当のところは「レアル・マドリード」ファンである。
そこで、ベティスの本拠地でやるレアル・マドリード戦を観戦することにした。
しかし、あくまでベティスの試合を見るベティスファンとして観戦するのだ。
ベティスの本拠地で敵陣のレアル・マドリードの応援をしようなどと言う馬鹿げたことはしない。
レアル・マドリードファンだとはいっても、ただ単に知っている有名な選手が多いからと言う理由でファンになったようなにわかファンの私にとって、手のひらを返すことは容易いのだ。
語学学校で知り合った日本人の女友達と二人でベティスのホームスタジアムへ乗り込む。
さっそく、地元のおっさんたちから「お前さん達、本当にベティスのファンかい?
レアル・マドリード見に来たんじゃねぇのかい?」と突っ込まれる。
ふっ!そんなことは想定内だ。
こんなこともあろうかと、実は前もってベティスの帽子とマフラーをしっかり買っておいたのだ。
「おっさんよ!良く見るがいい!このベティスグッズを!」と水戸黄門の印籠のごとく突きつける。
「おーーーーー!本当にベティスファンなんだな!良く来た!どこの国から来たんだ?試合見るのは初めてか?」などと笑顔で話しかけられ第一関門は無事突破。
ベティスグッズのお陰で一命を取り留めた。
しばらくすると、おっさんたちがピパスと呼ばれるひまわりの種を食べ始める。
このピパスはスペインの定番商品で塩味の付いた種を口の中で割って中身を食べるサッカー観戦には欠かせないソウルフードだ。
「お前さん達、ピパス買ってきてないのか?俺のを分けてやるから手を出しな」と言って大量のピパスを頂くと
「よく見てろよ!口に入れて、殻はこうやって前の席のやつにぺっぺっぺと飛ばしてやるんだ!ほれ!やってみろ!」と前の席のおっさんに向け種の殻を豪快に飛ばす。
しかも前のおっさんはパーカーを着ているためフードに殻がどんどん入っていく。
「そんなことして大丈夫なの?」と心配していると、私たちにおちゃめにウインクしながら前のおっさんに元気か?と声を掛けつつさり気なくフードの殻を取り除いていた。
そうこうしている間にレアル・マドリードの選手入場。
おっさんたちがブーイングを始める横でひそかに熱い視線を選手たちに送っていると、「ほれ、お前さん、Hijo de pu** とあいつらに言ってやれ」と放送禁止用語を強要してくる。
周りのおっさんたちの熱い視線。これは踏み絵だな。こうなったら勢いで言った方が盛り上がるだろうと判断しおっさんたちと一緒に放送禁止用語を叫ぶ。
すると周り一帯どっかーんと大うけ。しまいにはみんなで放送禁止用語の大合唱。
「よく言った」と握手を求められ他のおっさんからもピパスをもらう。
ハーフタイムの時には「ほれ、食え」とボカディージョまで出てきて至れり尽くせりだった。
すっかりおっさんたちと打ち解け、私のスペインサッカー初観戦は大成功の楽しい思い出となったが、おっさんたちとのエピソードが強烈すぎて肝心の試合内容はまるで覚えていない。
勝敗さえも全く覚えていないが、楽しかったことだけは鮮明に覚えている。
それでいいのだ。
スペインがひとつになった日 2008年ユーロカップ
2008年のユーロカップ、スペインは順調に予選グループを一位で通過してトーナメント進出。しかし、トーナメント一回戦の相手は長年なかなか公式戦で勝てない因縁の相手イタリア。
口では「イタリアなんかに負けない」「今度こそ勝つ!」などと言っているものの、心の中では「ここまでかぁ」と大半の人が思っていたと思う。
なぜならその頃のスペインと言えば、
元来、国内にレベルの高いリーガ・エスパニョーラを擁し、ワールドカップにも1978年大会年以来連続出場を続けるなど、歴史的に世界でも強豪国の一つとみなされてきた。しかし、レベルが高く熱狂的な国内リーグを持つがゆえに、国民は地元クラブなど支持するクラブへの忠誠心が強く、代表チームに対する国民からの人気はそれほど高くはない。ワールドカップでは、1950年大会で4位になった以外は長らく8強が最高成績であり、「永遠の優勝候補」、「勝てない強豪」などと揶揄された時期もあった。
「永遠の優勝候補」だの「勝てない強豪」とは酷い言い草だ!
しかし、みんな「代表戦になるとダメなんだよなぁ」と思っていたのは事実だ。
したがってこの時も「せっかく調子がいいのによりによってこんなに早くイタリアに当たるとは」と運の悪さを嘆いていたのだ。
そして運命のイタリア戦。意外にもいい勝負を繰り広げるスペインだがなかなか決まらない。
手に汗握る展開で試合はとうとう0-0のままPK戦へ。
もうここまで来ると「もしかしたら行けるかも?」と期待も大きくなる。
それにしてもPK戦ほど心臓に悪いものはない。昔好きだった人が大事な試合でPKを外すのを目の前で見て以来落ち着いて見ることができないのだ。
息をのむPK合戦はカシージャスのスーパーセーブのお陰でスペインの勝利!
この瞬間みんなで抱き合い叫びあい大騒ぎ。しかもこの騒ぎはいたる所から聞こえる。隣の家も上の階の人もみんな「うぉぉぉぉぉぉー!!!」と喜びの雄たけびをあげているではないか!
もう喜びすぎて家にいられない!とみんなで外に繰り出すと、考えていることはみんな同じなのか続々とみな外へ集まり出す。走っている車はクラクションを鳴らし、広場では興奮した人たちが噴水に入ったりと街中お祭り騒ぎだ。
まだ優勝していないのにこの騒ぎ。それだけイタリアに勝つというのはスペイン人にとって長年の夢だったようだ。
準決勝の相手はロシア。ロシアにはグループリーグで既に勝っていたため、応援するスペイン人たちには余裕があった。それでも、代表戦で勝てない歴史が長かったので心の片隅には一抹の不安。しかし結果は3-0で勝ちスペイン国民のボルテージは益々上がる。
そして待ちに待った決勝戦。相手はドイツ。
「ここまできたけど、まさか、もしかして、スペイン優勝しちゃう?!」という期待の中始まった試合はみんなのEl niñoトーレスが点を決め勝利。
ティキタカ・ティキタカと連呼している間にスペインがとうとうナンバーワンになったのだ!
街中の人たちが「Yo soy español,español,español」私はスペイン人!と叫びながら大騒ぎする光景は未だに忘れられない。
スペイン人はみな地元意識が高いため、スペイン人とは言わずマドリード人だの、カタラン人だのと名乗るのが当たり前で、スペイン人と言うと中には怒る人もいたほどだったのに、この瞬間はみながスペイン人であることに誇りを持ち、どの地方であってもスペインという一つの国の民族なんだとみんながまとまった。
スペイン人凄いだろう!スペイン人でよかったぜ!みたいな自信満々な顔で、あたかも自分が試合で勝ったかのように誇らしげに「Yo soy español,español,español」と歌っている人々を見て私は心底羨ましかった。
スペイン人じゃないですけど一緒に盛り上がっていいですか?と一歩下がって眺めいると「お前もこい!」と呼ばれみんなの輪に入り一緒に歌う。
この瞬間にスペインに居れたこと、この瞬間をここで味わえたことが凄くうれしかった。
スペインがひとつになったこのユーロカップの優勝。忘れられない瞬間だ。
この二年後のワールドカップでもスペインは見事初優勝し本当に世界一になった。
2010年のワールドカップについては、またいつか書きます。(予定は未定)
ポケットティッシュ
最近はめっきり減ってしまった街角のティッシュ配り。昔はいたる所で配っていたと記憶している。
そのお陰で我が家には常に大量のストックが常備されていた。だいたい同じような場所でティッシュ配りをしているため、ストックが少なくなった時はあえてこちらからもらいに行くぐらいの気持ちで歩くルートを決め確実にティッシュを確保していた。
日本では無料で手に入るティッシュだが、他の国で無料で配っているはずもないことはスペインに行く前から薄々気が付いていた。
そこでスペインへ行くときはティッシュをクッション材の変わりにスーツケースの四隅入れたり、隙間に埋めたりしてなるべく多くのティッシュを持ち込むようにしていた。
トイレにトイレットペーパーがないことも多いスペインではこのポケットティッシュは大いに役立つ。何度この日本のティッシュに救われたことか。
スペインでももちろんティッシュは存在する。
スペイン語では紙のハンカチ(PAÑUELOS DE PAPEL)と言うのだが、その名の通りハンカチの紙版だ。日本のポケットティッシュと比べるとはるかに分厚く丈夫だ。そのため、ティッシュに対する概念も違う。
日本のポケットティッシュは使い捨て。
一度使ったら捨てるものだと思うし、二回使うには強度が足りない。しかし、スペインのティッシュは強度がある為何度も使えるのだ。
ティッシュを何度も使う!というのは衝撃的だった。
気に入っていたスペイン人男子と出かけた時、鼻をかんだと思ったらそのティッシュをポケットにしまったのだ。
ゴミを持ち帰る環境に優しい配慮なのか?となるべくポジティブに考える。
しかし、またしても先程のティッシュを使い鼻をかんでいるのを目撃してしまう。
そしてまたポケットにしまう。
一体何度同じティッシュを使うのだろうか?百年の恋も冷めそうだ。
いやいや、きっとティッシュの残りがなくて仕方なく最後のティッシュを何度も使っているのだ。そーに違いない!と優しく考え
「日本のティッシュ持ってるよ。使ってみる?」とさりげなく差し出す。
「日本のティッシュ?使ってみたい!ありがとう!」と喜んだのもつかの間
「何これ?超薄くない?すぐ破れちゃうよ。日本のティッシュはダメだね」と大不評。「一回かんだら捨てるのよ!何度も使うなんて不衛生!」と対抗しても、それにしても薄すぎると一歩も引かない。第一使い捨てなんてもったいないではないか!と逆に反論される始末。
なんでもハンカチは鼻をかむものとして誕生したそうで、ヨーロッパでは今でもハンカチで鼻をかむ人がいる。そしてそのハンカチは一回一回洗わない。何度か、又は一日使ってから洗う。スペインのティッシュは「紙のハンカチ」と言うだけあって、用途もハンカチと同じ。さすがに洗って使いはしないが、一度で捨てるなんてこともしないのだ。
何度も使うから分厚く丈夫に作られるスペインの「紙ハンカチ」と、使い捨てを前提とした日本のポケットティッシュは似て非なるもの。
ついでなので触れておくが、「鼻をすする」行為はとても嫌われる。スペインに限らず多くの国でマナー違反とみなされる。しかし、「鼻をかむ」のはOK。スペイン人は結構大きな音をたてて堂々と鼻をかむ。
鼻をすするアジア人を見てしかめっ面しているスペイン人が大きな音をたて鼻をかみ、ティッシュを使いまわす。
私にはどっちもどっちに見えるが、ここで言い争っても仕方ない。
マナーも国によって変わるのだ。
慣れてくると分厚いスペインのティッシュもなかなか使い心地がいい。特に水のようにサラーっと流れ出てくるタイプの鼻水の時はおすすめ。鼻をかむというより流れ出た鼻水を押さえるような感覚でどうぞ。
風邪の治りかけの時の青っ洟の時は迷わず日本の使い捨てを!鼻水の種類によって変えれば毎回快適です。