スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

美容院難民

スペインで暮らす日本人は誰しも一度は美容院問題にぶち当たる。

失敗される、満足な出来にならない、イメージが伝わらないなどなど、みんな色々と苦労する。

クセ毛が多いスペインでは日本人の真っ直ぐな髪は切りづらいらしい。

 

スペイン滞在も半年を過ぎた頃、そろそろ美容院に行きたいなと思い始めたが美容院に関していいうわさを耳にしない。

日本人の男友達はいつも変に刈上げされたり、変なもみあげにされて美容院から帰ってくる。

彼は果敢にも毎回色々注文をつけてみるらしいが、上手くいかないようだ。特にもみあげの処理について多いに不満を持っていた。

彼がもみあげぱっつんで帰ってくるたび、女でよかったと思ったものだ。

 

どの美容院に行こうかと迷っていたら学校の先生が友だちの美容院を紹介してくれた。

やっとスペイン美容院デビューが果たせる。

しかも先生が一緒に付き添ってくれるというので安心安心。久しぶりの美容院に私のテンションも上がる。

美容院へ私を送り届けたら帰るものだと思っていた先生は私の横の席を陣取り美容師と話続けていた。

カットをし、髪を洗い、セットが終わるまでずっとだ。

髪を洗ってもらっているとき背中まで水が入ってきたが何も言えない。

そして私は美容院に入った時とたいして変わらぬ姿で美容院を後にした。

背中が多少濡れているだけである。

確かにあまり切らないでとは言ったが、ビフォーアフターがまるで変わっていなかった。もちろん誰にも美容院へ行ったことに気付いてもらえない。

とても微妙な中途半端な美容院デビューとなってしまった。

 

なんだかすっきりしないものの、スペインの美容院もそこまで酷くないことがわかったので今度は他の美容院へ行ってみたくなった。

そんな時、友だちが美容学校の経営する美容院とやらを見つけてきた。

実習生がカットを担当する格安コースがあるという。要は練習台だ。

私の担当になったのはスペイン人の男の子で、席についた私を見て明らかに動揺していた。

前回の美容院で「3㎝カットで」とオーダーしたら本当に3㎝しか切られず、誰にも気付いてもらえなかったので今回は「5㎝カット」とオーダーしてみる。

私の隣に座った友だちを担当したのはいかにも美容師見習いです!風の女の子で手際がいいのだが、私の担当君はいつまで経ってもぐずぐずしている。

はさみを動かす手もおどおどしている。

「これははずれを引いたな」と私も思ったし、きっと彼も思っているのだろう。

すると彼は切ることを諦めたのか櫛で梳かすばかりで一向に切ろうとしなくなった。

どうするつもりなのだろうか?としばらく観察していると、彼が

「先生にやってもらおう作戦」に出たのだなと気付いた。

見回りしている先生に熱い視線を送り「こっちにきて」と念力を送っているようだ。

彼の念力が功を奏し先生がやってきた。

「全然切れてないじゃない!」と怒りながらも「こうやるのよ!見てなさい!」と右側だけ切り始め「はいっ!こーやって同じように左側も切りなさい」とあっとゆーまに去って行ってしまった。

「先生~行かないで~、このまま置いていかないで~」と心の底から思ったが無情にも先生は戻ってこない。

腹をくくった担当君が意を決して左側のカットを始める。

ダメだ。このままでは右と左で仕上がりが違う斬新なアシメトリーヘアーになってしまう。そんな攻めた髪型なんてオーダーしていないのに。

困ったことになったと考えている矢先、担当君の手が再び止まった。

今度は泣きそうだ。その顔を見た私が泣きたい。明らかに何かやらかしてしまった顔をしている。

結局見かねた先生が戻ってきて最後まで仕上げてくれたが、5㎝カットとオーダーした髪は10㎝カットとなっていた。

彼の失敗をごまかすためにどんどん短くなってしまったのだろう。

アシメトリーカットになるよりはましだが、残念な結果だ。

 

その後、担当してくれた彼はどうなったのだろうか?無事に美容師になれただろうか?彼が美容師をあきらめるきっかけに自分がなっていないのを願うばかりだ。