スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン。私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

初めてのスペインサッカー観戦

私が初めてスペインで見たサッカーの試合は当時住んでいたセビージャのチームの

ベティス」対「レアル・マドリード」の試合だ。

セビージャにはベティスとセビージャの二つのチームがあるが、富裕層のファンが多いセビージャに対してベティスのファンは労働者階級層が多い。

そしてこの二つのチームをめぐってセビージャの街は真っ二つに分かれる。

セビージャダービーと呼ばれる「ベティス」対「セビージャ」の試合の日は街中ピリピリした空気が流れるほどだ。

 

ホアキンがいる」という理由だけでベティス派になった私だが、本当のところは「レアル・マドリード」ファンである。

そこで、ベティスの本拠地でやるレアル・マドリード戦を観戦することにした。

しかし、あくまでベティスの試合を見るベティスファンとして観戦するのだ。

ベティスの本拠地で敵陣のレアル・マドリードの応援をしようなどと言う馬鹿げたことはしない。

レアル・マドリードファンだとはいっても、ただ単に知っている有名な選手が多いからと言う理由でファンになったようなにわかファンの私にとって、手のひらを返すことは容易いのだ。

 

語学学校で知り合った日本人の女友達と二人でベティスのホームスタジアムへ乗り込む。

さっそく、地元のおっさんたちから「お前さん達、本当にベティスのファンかい?

レアル・マドリード見に来たんじゃねぇのかい?」と突っ込まれる。

ふっ!そんなことは想定内だ。

こんなこともあろうかと、実は前もってベティスの帽子とマフラーをしっかり買っておいたのだ。

「おっさんよ!良く見るがいい!このベティスグッズを!」と水戸黄門の印籠のごとく突きつける。

「おーーーーー!本当にベティスファンなんだな!良く来た!どこの国から来たんだ?試合見るのは初めてか?」などと笑顔で話しかけられ第一関門は無事突破。

ベティスグッズのお陰で一命を取り留めた。

 

しばらくすると、おっさんたちがピパスと呼ばれるひまわりの種を食べ始める。

このピパスはスペインの定番商品で塩味の付いた種を口の中で割って中身を食べるサッカー観戦には欠かせないソウルフードだ。

「お前さん達、ピパス買ってきてないのか?俺のを分けてやるから手を出しな」と言って大量のピパスを頂くと

「よく見てろよ!口に入れて、殻はこうやって前の席のやつにぺっぺっぺと飛ばしてやるんだ!ほれ!やってみろ!」と前の席のおっさんに向け種の殻を豪快に飛ばす。

しかも前のおっさんはパーカーを着ているためフードに殻がどんどん入っていく。

「そんなことして大丈夫なの?」と心配していると、私たちにおちゃめにウインクしながら前のおっさんに元気か?と声を掛けつつさり気なくフードの殻を取り除いていた。

 

そうこうしている間にレアル・マドリードの選手入場。

おっさんたちがブーイングを始める横でひそかに熱い視線を選手たちに送っていると、「ほれ、お前さん、Hijo de pu** とあいつらに言ってやれ」と放送禁止用語を強要してくる。

周りのおっさんたちの熱い視線。これは踏み絵だな。こうなったら勢いで言った方が盛り上がるだろうと判断しおっさんたちと一緒に放送禁止用語を叫ぶ。

すると周り一帯どっかーんと大うけ。しまいにはみんなで放送禁止用語の大合唱。

「よく言った」と握手を求められ他のおっさんからもピパスをもらう。

ハーフタイムの時には「ほれ、食え」とボカディージョまで出てきて至れり尽くせりだった。

 

すっかりおっさんたちと打ち解け、私のスペインサッカー初観戦は大成功の楽しい思い出となったが、おっさんたちとのエピソードが強烈すぎて肝心の試合内容はまるで覚えていない。

勝敗さえも全く覚えていないが、楽しかったことだけは鮮明に覚えている。

それでいいのだ。