スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

シャナドゥー

マドリードの南西の郊外にシャナドゥーという名の巨大ショッピングモールがある。

スペインのショッピングモールというものは良くも悪くも、どの地域でもなんら代わり映えしない代物が多いのだが、シャナドゥーには決定的な違いがある。

それは「人工スキー場」が併設されているという点だ。

 

「人工スキー場」と言えば「ザウス」を思い出す。千葉県の船橋に1993年から2002年まであった人工スキー場。10年ほどしか営業していなかったそうだが、私の記憶ではもっと長い間その場に君臨していたようなイメージがある。バブル崩壊後とはいえ世の中はまだまだバブルの余韻で浮かれていた頃で、スキー人気に加えスノーボードブームが到来していた。ご多分に漏れずミーハーな私はスノボーに手を出していた頃だ。

一度行ったことがあるが、強気な料金設定とコースの単調さに腹を立て、人の多さに事故寸前で引き揚げた記憶しか残っていない。

もう少し余裕のある大人になってから出直そうと思ったが、結局二度と戻らぬまま閉館してしまった。

 

スペインでは全体的に冬のスポーツの人気が低い。したがって、冬季オリンピックはあまり盛り上がらない。テレビではオリンピックそっちのけで国内リーグのサッカーの話題ばかりだ。

冬季オリンピックがあまりにも話題にならない為、スペイン滞在中の10年間に開催された冬季オリンピックの記憶のほとんどは後から見た日本のニュースのダイジェストが元になっている。これを私は「私の中の失われた10年」と呼んでいる。トリノ荒川静香や、バンクーバー浅田真央、ソチの羽生結弦も全部生中継では見ていない。スペインにもハビエル・フェルナンデスというスペインが世界に誇るフィギュアスケート選手がいるのにいまいち盛り上がらないのはなぜなのか?冬季オリンピック開催時にスペインで見たオリンピック関連のニュースで一番覚えているのはスキージャンプの選手の板がロストバゲージ被害に遭い、他の選手の板を借りて試合に臨んだというニュースだけだ。

 

冬スポーツの人気が低い割にマドリードの人口スキー場は比較的繁盛している。奇しくも日本のザウスが閉館した翌年の2003年にこのシャナドゥーはオープンしたらしいが、2021年の今に至るまで潰れぬまま健在している。

ゲレンデの様子がガラス張りの窓から見える造りになっているのがポイントだろう。大型ショッピングモールに併設しているのでスキーに興味がない人もついつい中を覗いてしまうのだ。したがって窓際はいつもゲレンデを凝視する人々に占領されている。

子供や初心者向けのクラスなども開講しているようで、中を見た子供たちは「私もやりたい~」と親にねだりだす。経営陣の思うつぼ。商売戦略の勝利である。

スノボーをし、ご飯を食べ、買い物をして映画まで見ることができる。一日フルコースが全て一つのショッピングモールの中で完結するのだ。

 

スキー場は割引クーポンなども出回っており比較的お手頃な金額でスキーを楽しむことができる。全てレンタル可能なので手ぶらで行けるのも魅力的。

スノボーに初挑戦したいという友達がいたので試しに一度行ってみたが、なかなかよかった。

全長は250メートルで若干物足りないが、ちょっと試すにはもってこいだ。窓越しで見ていたより実際は人がまばらで追突事故も起こらないし、並ばずすぐにリフトに乗れる。

雪があまり降らないマドリードでこんなに手軽に雪と戯れられるのは貴重だ。

 

そういえば今年の1月にはマドリードで珍しく大雪が降ったのだが、友達から送られてくる写真はどれもみな浮かれていた。道でスキーをやる若者や広場で大雪合戦が繰り広げられ、雪と戯れるために老いも若きもぞろぞろとみんなが家から出てきて小学生並みのはしゃぎっぷりで雪を満喫していた。

異常気象までも楽しむところがスペインらしい所だ。