スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

Hospital de día/デイホスピタル

スペインでの入院模様は以前ブログで書いたが、今回は退院後に通ったデイホスピタルでの出来事について。

 

突然の入院と同じく、退院も突然だった。

入院から二週間でやっと病名が判明し、治療が始まった矢先の退院。まだまだ痛みもあるので退院はまだ先だと思っていたのだが、あまり長く入院すると逆に体に良くないと説明された。

上げ膳据え膳で入院していると自力では何もできない体になってしまうらしい。確かに体力が著しく落ちていることは自分でも自覚していた。一番驚いたのはトイレで踏ん張ろうと思っても踏ん張れないことだった。たかだか三週間ぐらいの入院生活で踏ん張れないほど腹筋が退化するとは思いもよらなかった。

という事で、リハビリもかねて自宅から通院する形で治療を続けることが最善と判断され、痛みが残るままあっさりと退院することになったのだ。

 

通院で通ったデイホスピタルなるものは入院していた病院の中に併設されている施設で、私のような難病の点滴治療やがんの抗がん剤治療などにも使用される。

病院内は歯医者にあるようなリクライニングチェアが点在していて、テレビも所々に設置されていた。

受付を済ませると看護師がその日分の点滴薬を用意し、本日のメニューはこちらですと言わんばかりに目の前に点滴をずらっと並べてゆく。全ての点滴を打ち終わるまで大体7,8時間。

 

長丁場なので本や携帯、タブレットなどを持ち込み時間をつぶす。テレビもあるので退屈はしない。お昼には簡単な軽食も配られるので至れり尽くせりだ。

 

二度目の通院の時、私の席がちょうどナースステーションを見渡せる位置にあったのでぼーっと看護師たちの動きをそれとなく観察することにした。

 

一台のパソコンの調子が悪くなったようで一人の看護師が悪戦苦闘していた。すると別の看護師が倉庫にいるヘススに聞けば治ると思うから倉庫に行ってみれば?と言うので看護師はその場を離れ倉庫へ向かっていった。

すると助言した看護師もその場を離れ、しばらくパソコンの周りには誰もいなくなった。

そこへ何も知らない看護師が現れ、またパソコンの不具合に悪戦苦闘しだす。

ヘススを呼びに行ったはずの看護師は倉庫からタオルなどの備品を持って帰ってきたが、肝心のヘススは一緒ではないようだ。しかも、パソコンの不具合の事などまるで忘れている様子でパソコンを素通りして他の作業を始めている。

パソコンに悪戦苦闘している二人目の被害者はそのうち隣の看護師と昨日の出来事を話だし、ついにはパソコンをそのままにして席を離れてしまった。

 

一部始終を遠巻きながら見守っていた私は、問題のパソコンがなんにも解決されぬままそこに放置されているのをただただ眺めていた。ヘススとやらは一体いつパソコンを直しにくるのだろうか?

誰一人としてメモを残さないので結局その後も何人かがパソコンを触っては不具合に気づき他のパソコンへと去って行くという事を繰り返している。

そしてお昼を挟みとうとう勤務交代の時間になってしまった。

 

勤務交代時には業務の引継ぎがあるはずだから、遅番の人にはパソコンの不具合が伝わるのではないだろうか?と思ったが、どうやら私の見立ては甘かったようだ。その証拠に目の前のナースステーションではまた新たなパソコン被害者が頭を抱えて苦戦している。パソコンが朝から壊れていることと、倉庫にいるヘススならその不具合を治せるらしいという情報を教えてあげたいが、薬漬けで頭がボーっとしている私には荷が重い。

 

「問題放置プレー」はスペインの職場ではよく起こるが、自分が命を預けている状態では笑うに笑えない問題だ。自分の点滴をじっと見つめこの点滴は本当に大丈夫なのだろうかと疑心暗鬼になるが、正解がわからないので点滴をいくら見つめても不安は消えない。

 

そんなことを考えている間に、気が付くと問題のパソコンに一人の男性看護師が立っていた。ヘススだ!

おー!ヘスス!まさにジーザス!

 (※ ジーザス (Jesus) は、イエス・キリストの「イエス」の英語読みである。このため、映画や演劇などには「ジーザス」という言葉を多用した作品が多く存在する。また、「おお神よ」という表現や「神様!(助けてください)」という場面などに「ジーザス」ということもある。ラテン語読みでは、「イエズス」(教会ラテン語に基づく慣用)となる。スペイン語読みではヘスス(ヘスース)である。 出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』)

 

これでやっと午前中から続いているドタバタ劇が終わりを迎えることになるのだなと見守っていると、ヘススは少しパソコンをいじってみた後に静かに立ち上がり、紙にマジックで大きく✖と書いてパソコンに張りその場を立ち去っていったのだった。

 

抜本的な解決には至らないものの、パソコンが壊れているという事実を公にするという本日初めてのワンアクションのお陰でその後の混乱は避けられることとなった。

ヘスス!グッジョブだ!

 

遠い昔、小学生たちが8時だよ全員集合!を見ながら「志村後ろ!後ろ!」と叫んでいた気持ちが痛いほどよくわかる一日の出来事だった。

「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」とチャップリンは言ったが、スペインは近くで見ても、遠くで見ても喜劇で溢れている。

 

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