スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

スペインでの入院生活

ある日原因不明の腕の激痛に襲われたので緊急病院へ行ってみたところ、血圧も異常に高いことがわかりそのまま緊急入院することになった。

CTを撮ると言っていたし、痛みも引かないから取り敢えず一泊するのかな?と思っていたら翌日車椅子で違う病室に移された。

「私入院するの?」と聞いたら「もう入院しているんだよ」と返され、それから3週間の入院生活を送ることになったのだ。

 

入院が長引いた理由は激痛の原因がわからず病名がなかなかわからなかったからだ。

入院してから病名が判明するまではひたすら検査の日々だった。

 

ここで素晴らしいのはスペインの医療制度。

公立の病院の医療費は無料。無料と言っても社会保険で賄うということなのだが、実際自分の身銭を切らないで医療が受けられるというのはありがたい。

 

患者に料金の負担がかからないからなのかは知らないが、私の入院先の病院は病名がわかるまで、ありとあらゆる検査をしてくれた。

公立の大きな総合病院だったためあらゆる科であらゆる検査をし、入院して二週間ほどで病名が判明した。

日本では難病に指定されている膠原病の一種だった。

この病名がわかったときスペイン人の担当医は

「宝くじにあたるような確率だよ。今年は宝くじ買ったら当たるんじゃない?」と笑顔で言った。

(その言葉をうのみにし宝くじを買ったが、まったく一円も当たらなかった)

 

入院時、私の症状が手足の痺れと高血圧だったため脳溢血などを疑われ脳外科管轄の病室をあてがわれた。

二人部屋でテレビとシャワーとトイレが付いたきれいな病室だった。

食事も朝、昼、晩、におやつまで。ペットボトルの水2本とコーヒーも。

しかも昼と夜は一皿目と二皿目を前日に選ぶことができる。

例えば一皿目はスープかサラダ。二皿目は魚か肉など。

毎朝窓を開け空気を入れ替えながら病室の掃除をし、ベッドのシーツを変え、新しいタオルをくれる。

日本のように差額ベッド代やら食事代を別に請求されることはないのにこのサービスのよさ。

 

10年スペインにいて一番素晴らしいサービスを無料の病院で受けるとは思っても見なかった。

 

病院のスタッフも皆気さくで「まだいるのー?」なんて言ってきたり、

同室のおばあちゃんの夜中のトイレにいつも付き添ってあげていたので

「ここで働けば?」とスカウトされたり、

痛みがひどくて毎回夜中に痛み止めの注射をねだっていた時には

「お前はジャンキーか!」と笑われたり、本当にみんなが明るくとても救われた。

 

生体検査のため部分麻酔で足のくるぶしから組織を採取する時たまたまいた名誉教授に

「君、日本人なんだってね。僕の息子も日本人と結婚してね。ほら、見て!僕の孫!日本人とのハーフなんだ。かわいいでしょう?」

と足にメスを入れられている状態で写真を見せられたりもした。

 

激痛と共に右手が動かなくなって筋電図をとることになったのだが、これがまた痛い。

筋肉に電流を流して反応を見るらしいのだが、毎回毎回痛くて大嫌いな検査だった。

大嫌いな検査なので当然この検査をする先生を見ると自然に顔が険しくなる。

「そんなに嫌わないでよ」と言われても笑顔にはなれない。

 

その後日本でも感じることだが、医者という人々はSっけがある人が多い気がする。 「これ痛い?」と聞いてくる顔には若干の高揚感があるように思えるのは私だけだろうか? 

 

右手の神経がやられて親指と人差し指が動かなかったのでリハビリにも行った。

握れないので文字が書けない。

かろうじて曲げられるのだが普通のペンは持ちづらい。

太いペンだと握りしめなくて済むため少しは文字が書くことができた。

そこで担当の先生に言われた解決策が

「これからは文房具屋で一番太いペンを買いなさい」だった。

粘土を使って肉を切る練習の時は「あなたはナイフを左で持ちなさい」だったし、

缶詰が開けられませんと言ったら「缶詰を自動で開ける機械があるからそれを買うか、他の人に開けてもらえ」だった。

 

理学療法士のはずなのにアドバイスのレベルが小学生並みだ。

私の場合、事故などの外的要因で動かないわけではないので、根本的な病気の治療をすればおのずと回復するはず、と言われていたのでリハビリでできる範囲は限られていたのだが、もう少しレベルを上げてもらいたいものである。

 

しかし、その後日本へ本帰国して病院に行ったときに、

「よくこの病気をこんなに早期に発見できたね」と言われた。

 

病名がわかるまで有無を言わさずに検査をしてくれたスペインの病院に感謝しかない。 

今があるのはスペイン医療のおかげです。