スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

スペインの歯医者

スペインでは公立の病院は無料だが、歯科医療は一般的に保険適応外。

プライベート保険には歯科医療をカバーしているプランもあるのだが、歯が入ると月々の保険料も値上がりする。

したがって、スペインで歯の治療をする場合はある程度お金がかかるのだ。

 

親知らずがうずき、意を決して歯医者に初挑戦。

子供の頃から歯医者には長く通っていたため、歯医者に抵抗はないが、スペインの歯医者は初体験なので若干ビビッて後回しにしていたのだ。

 

海外で初めてのことは大抵緊張する。

病院も、美容院も歯医者も。

 

職場の同僚などから情報を収集した結果、スペインの歯医者は初診無料で見積もりだけ出してくれる所が多いらしいので、何件か行って見積もりをもらっておいでと勧められた。

 

そこで家の近所と会社の近所の二つを比べてみることにしたのだが、最初に行った会社の近所の歯医者がとても感じがよく、いつも利用するバルも同じで意気投合。

見積もりで出してもらった金額も同僚に相談したら妥当とのことだったので他と比べることもなく、会社の近所の歯医者に行くことに決めた。

 

見積もりは親知らずの上下、欠けてほったらかしていた差し歯、少し虫歯になっている歯などそれぞれの歯ごとに治療方法と金額が書かれていて、全部直したらいくら、この歯だけ直したらいくらと自分の意思でどこまで治療をするかを決められる。

日本に比べると値段は割高だが、最初に治療費と治療日数がわかり自分の納得した範囲で治療が受けられるのはとても良いと思った。

 

会社の近くの歯医者を選んだので、昼休みの時間を有効活用して予約を入れていたのだが、昼休みに親知らずを抜いて職場に戻った時は同僚にドン引きされた。

私としては休みの日に職場の近くに行くのが面倒だったので、わざわざ出勤日に抜いたのに。

抜歯後の止血の為の脱脂綿を口いっぱいに詰めて会社に行くのは流石にスペインでもダメらしい。

 

そんな私だが、歯医者での評判はとても良かった。

ある日「あなたはこのクリニック一番の優等生のお客さんよ!」

と先生から褒められた。

理由を聞いてみると、私が「治療中出来る限り口を大きく開け、まったく動かない」からだという。

 

歯医者に行ったら誰もが同じことをすると思っていたが、よく思い出してみると、私の前に治療を受けていたおばちゃんは治療中ずっと話をしていた。

待合室で順番を待っていた時、治療室からずっと話し声が聞こえていたため、前の人は付き添いの人と一緒に中にいるのだと思っていた。

でも部屋から出てきたのはおばちゃん一人。

ということは、おばちゃんは治療中ずっと口をあけたまま話をしていたのだ!

歯の治療中に世間話を続けられるその根性!さすが世間話大好き人種だ。

 

小さな頃から歯医者とは機械音とクラッシック音楽だけが流れる空間だと思っていたのに、スペインではそこに世間話も加わるなんて!

 

私なんかは小心者なので、歯の治療中にいかに迷惑をかけないようにするか、舌はどこにもっていけば治療の妨げにならないかと頭を悩ませたり、つばを飲み込みたくなってもバキュームしてもらうまでグッと堪えたりしている。

もし万が一痛みなどを訴える場合は手をそっと上げる準備までしているのだ。

なんと気の効く患者だろうか。

そりゃあ優等生と褒められるわけである。

 

私は褒められて伸びるタイプ。

 「歯の治療中にビクともせずじっとしている」という、

その後の人生にまるで役に立たない特技だとしても、褒められるのは嬉しいものだと気づいた私であった。