スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

暗闇

私は部屋を真っ暗にして眠る派だが、日本の家での暗闇とスペインでの暗闇は闇の深さがまるで違う。

スペインの家には「Persiana」と呼ばれるブラインドがついているのだが、これがすごいのだ。

日本とは違い窓の内側に設置するのではなく、窓の外に設置されしっかりと重い。

形はブラインドだがどちらかと言うと雨戸に近いかもしれない。

 

ペルシア-ナを下ろすと、真っ暗闇に包まれる。本当に真っ暗。

目覚ましが鳴ってもペルシアーナを上げるまでは真っ暗闇。

なので例え昼間であってもペルシアーナさえ下ろしてしまえば夜のようにぐっすり眠れてしまう。

 

光を遮断することに加え外気も遮断できるので、セビージャなどの暑い地域では朝家を出る時はペルシアーナを下ろして外出する。

日中の外の暑さを家の中へ溜め込まないための知恵だ。

 

日本の私の家にはペルシアーナがないので、日の出からカーテンを通して光が漏れてくる。

夏は特に夜明けが早い。

朝の5時前から日が出てくるのは勘弁して欲しい。

 

スペインに住んでいる頃は夏に日本に帰国することが多かったので、毎回日本の夏の輝かしい朝の日差しに若干イライラしていた。

日本の夏の朝は、例えるならばラジオ体操さながらに

「すばーらしい朝が来た。きぼーおの朝が」と強引に人に入り込んでくるイメージだ。時差ボケもプラスされているため、この押し付けがましい朝の始まりが憎かった。

スペインの場合は「あ、実はもう朝です。てへ」みたいな、こちらがペルシアーナを上げるまで「朝」を気付かせない。

しかも、夏でも日の出は7時頃だ。日本に比べて2時間も日の出が遅い。

因みに冬の日の出は8時半頃なので、朝ペルシアーナを上げても「まだ夜中です」といわんばかりに外は暗い。

したがって、すごく早起きしている気分になる。

 

そしてもうひとつ。暗いといえばスペインの家の中。

間接照明が多く、光もオレンジ色を帯びた優しい照明のため日本の家の電気と比べると薄暗く感じる。

なんでも欧米の人の瞳は色素が薄く、蛍光灯の明かりが眩しく不快に感じるためオレンジ電球が普及しているのだとか。

冬でもサングラスをかけるのは目の負担を軽減するためらしい。

オフィスやお店ではさすがに蛍光灯を使うけど、リラックスする光ではないので家では使わないそうだ。

したがって、スペインの家の中は薄暗く、外でもサングラスで薄暗い。

 

そしてその薄暗さは私の顔の「シミ」を隠してくれていた。

大体、スペインに住んでいると美白とは無縁になってしまうし、日焼けのせいで皆シミだらけ。

化粧品もシミ対策よりシワ対策の方が圧倒的に多い。

女性にはシミよりシワが天敵なのだ!

スペインにおいてシワがないというのは絶賛に値する。

昔から剥き卵のような「ゆで卵顔」のためシワがない私は、ただ顔がパンパンなだけなのに周りの女性陣から褒め称えられていた。

 

そして調子に乗る。

私はすぐ調子に乗る。

すぐに調子に乗れるのが私の特技なのだから仕方ない。

 

そして「シワはないが、シミはある」という事実をすっかり忘れ、日本に帰国して打ちのめされたのだ。

日本の神々しいまでに眩しい蛍光灯の下で久しぶりに見る自分の顔は酷かった。

こんなにシミが増えていたとは。

そして街中に鏡のように磨き上げられた窓たちが、頼んでもいないのに顔を映し出してくる。

残酷な国だ。

蛍光灯の下で鏡を見るたび、「薄暗い国へ戻りたい」と思う私であった。