ヘルメット
私がその昔マドリードで働いていたお店は経営者が日本人女性だったこともあり、主に日本やアメリカから輸入した洋服雑貨を販売していた。
数ある商品の中でも特に目を引いたのは日本製のヘルメットだ。
洋服雑貨店でヘルメットを売るという斬新な発想と、スペインでは見かけないお洒落なジェットヘルメットや半ヘルのおかげで大人気だった。
スペインでは法律で禁止されているのか、半ヘルは見かけない。そしてもちろんスペインの安全規格が通ったものでない限り着用は法律で禁止されている。
したがって私たちの店ではあくまで「装飾用」または「観賞用」としてヘルメットを販売していた。
購入したお客さんがそのヘルメットで公道を走るかどうかは「あなた次第!」という何とも姑息な手段だ。
購入前には必ずスペインでの安全規格は通っていない旨を伝えつつ、さりげなく「日本での安全規格はきちんと通った商品です」とアピールも忘れなかった。
商品単価も高いので、売れるとこちらも非常にありがたい。売れ筋のナンバーワンはゴーグル付きの☆の半ヘルだ。
正直なところスペインで見かけるヘルメットは実用性のみで全く可愛くないのでうちのヘルメットは超絶お洒落に見えた。お店があった場所も流行に敏感なLGBTの人たちが多い地域だったこともあり、実用性とか安全規格とかより見た目重視で購入してくれるお客さんが多かった。
「装飾用」とはいえヘルメットなので必ず試着をしてもらうのだが、思いのほかサイズ合わせが大変だった。
スペイン人たちは日本製のヘルメットに自分の頭が入らないなんて夢にも思っていないのだが、実際には日本のヘルメットに頭が入らなくて撃沈して帰っていく人もちらほらいたし、Mサイズが入らなくてLサイズになって屈辱を味わう人もいた。
「日本人は頭が大きい」と日本人も思っているし、世界の人も思っていると思う。
が、それは正しくない。
正確には日本人は「顔」が大きいだけで頭が大きいわけではないのだ。
顔が大きいという言い方も間違いかもしれない。「平たい顔族」とテルマエ・ロマエで表現されたように顔が平面なのだ。平面だから大きく見えるのである。同じ面積でも顔を立体化すると小さく見える。そーゆーことだ。
「日本人より頭が大きいなんて」とショックを受けているお客さんに私は幾度となくその説明を繰り返したものだ。
もちろん顔が小さく尚且つ頭も小さいお客さんもたくさんいた。日本でも顔や頭が小さい人もたくさんいる。特に最近の若者は昭和世代と比べると格段にスタイルが良くなっているので日本人に対する世界の人々のイメージもだんだん変わって行くだろう。
ヘルメットで人気だったあの店も残念ながら今はもうないが、もしマドリードで☆の半ヘルを見かけたらその昔日本人が経営していた店で買ったのだと思って間違いないだろう。
私が見つけたら懐かしさのあまり追いかけて声を掛けてしまいそうだ。
「そのヘルメット、スペインの規格通ってないでしょう?」なんて間違っても警察に通報しないようにお願いします。