バカシオネス
8月のマドリードは閑散としている。なぜなら皆マドリードを脱出して夏の休暇へと旅立ってしまうからだ。
スペインの会社では大抵7月または8月に約一ヶ月の休暇が与えられる。海などの夏に人気の観光地以外のバルや商店などでは二週間から一ヶ月の休暇を取りシャッターを閉めてお店を開けないなんて所も結構ある。
スペイン人にとってバカシオネス(夏の休暇)はとても大切なものでバカシオネスのために一年働いているといっても過言ではない。
春のセマナサンタ(イースター)が終わったら心は夏のバカシオネスに向けて一直線となり、夏の到来と共に職場にはソワソワ感が漂い今年はどこそこへ行くという話ばかりが話題を占める。そしてバカシオネス後の一か月はバカシオネスの思い出話が続く。
一年の中でバカシオネスが心を占めている割合が高すぎる。
私の同僚たちの一年の月別思考回路は毎年こんな感じだった。
1月 クリスマスで食べまくり太ってしまった。ダイエットをしよう!
2月 ダイエット始めます。セマナサンタどーしようかな?
3月 やっと冬時間が終わるー!イエーイ
4月 日が長くなったのでテラスでの一杯が最高!バカシオネスどーしよう!
5月 日焼け!テラス!日焼け!バカシオネスのプラン立てます!
6月 日焼け!テラス!バカシオネスの準備!
7月 日焼け!プール!バカシオネスへのカウントダウン!
8月 はい来た!バカシオネスー!!! イエーイ!
9月 日焼けを眺めてバカシオネスの思い出に浸る
10月 クリスマスの宝くじに当たったら何買う?
11月 クリスマスの宝くじあっちの店でも買っておこう。クリスマスのプレゼント何にしよう?
12月 クリスマス!クリスマス!クリスマス!
本当に毎年こんな感じ。夏休みを指折り数えて心待ちにする姿はまるで小学生のようだ。
しかしこのルーティン、乗っかってみると案外楽しい。
バカシオネスとクリスマスが一年を支える柱となってメリハリをつけてくれるので7月になって「えっ!もう半年以上経ったの?ついこの間年が明けたのに?」なんてことにはならない。(こんな人間は私だけかしら?)
スペイン人の代表的なバカシオネスの過ごし方は海辺の家(別荘や貸家やアパートホテル)でのんびりすること。日焼けをしながら本を読み、暑くなったら海に入り、お腹がすいたら家に帰る。そして日が落ちたら散歩をし、一杯ひっかける。これの繰り返しだ。
あとは海外旅行も定番中の定番。長い休みを利用してちょっと遠い国まで足を伸ばす人も多いし、若い子はプチ留学をする人もいる。皆思い思いにそれぞれのバカシオネスを目一杯満喫するのだ。
なんだか楽しいことだらけのバカシオネスだが、バカシオネスに伴う弊害も起きる。
まず、バカシオネスの期間中はありとあらゆる場所で仕事が停滞する。電話で問い合わせても「担当者が夏休みなのでわかりません」とあっさり言われてしまうのだ。しまいには「担当者が戻ってくる一か月後にまた連絡ください」などと電話を切られる。
一か月は長い。お役所関係も業務はストップし、申請は宙ぶらりんにされたりする。
日本人からすると驚きの連続だが、現地の人は毎年のことなので誰もなんとも思っていない。
「不便だけどしょうがないよね、だってバカシオネスだもん」と肩をすくめて終わりだ。
こういう事にかけてスペイン人はとても心が広い。一か月の休みが人を寛大にさせるのだろうか?
日本に帰ってきてからというもの日に日に心が狭くなってゆく私に足りないのは一か月の休暇だったのか・・・
寛大な人間になるために私にも是非お休みを下さい。