スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

ニオイの記憶

スペイン人は香水が大好きだ。

みんなプンプン香水の香りを振りまきながら歩いている。気づかない程度につけるなんてことはしない。香水なんだから匂ってなんぼと言わんばかりに豪快に匂いを振りまくのだ。したがって、残り香だけで誰が居たかがわかったりする。

「社長がここにいたんだな」と匂いだけでわかるのはとても便利なのだが、風向きによって予想外の場所から社長が現れたりするので気が抜けない。

 

人気の香水は人と被ったりするが、香水が同じでもその人独自の体臭と相まってオリジナル臭となるため親しい人ならば簡単に見分けがつくのが不思議だ。したがって、香水を変えても何となく誰かわかる。

会社の更衣室に忘れられていたカーディガンの匂いをみんなで嗅いで持ち主を探し当てたこともある。麻薬探知犬もびっくりだ。

 

日本人に比べるとスペイン人は体臭がきつい人が多いと思うが、不思議と受け容れられる自分がいてびっくりする。スペインの気候の下で嗅ぐ体臭は驚くほどその場になじみ「ちょっと臭いな」とサラッと思う程度にとどまる。同じ匂いを日本で嗅いだらきっと「臭っ臭っ臭―い!」と顔をしかめることになるだろう。実際、私は納豆が苦手なのだが、スペインで納豆を嗅いだ時は「あれ?美味しそう!」と思うほど納豆はかぐわしい大豆の匂いを放っていたのだ。

知らない間に苦手克服ができたと喜んでしまったが、日本に帰ってきて納豆の臭いを嗅いだらやっぱり苦手な臭いに戻っていた。 

不思議に思って調べてみたら、湿度が高いとニオイを強く感じるそうだ。

 -マドリードは湿度が低いからあまり嫌なニオイを感じない

 -日本は湿度が高いから敏感に嫌なニオイを感じてしまう

そーゆーことらしい。確かに、乾燥している冬より梅雨の時期の方が臭いにおいを感じる気がする。

 

 

人にはそれぞれ「好きな匂い」があると思う。その匂いを嗅ぐと一瞬目を閉じて深呼吸をしちゃうような匂い。いくつかあるお気に入りの匂いの中でちょっと人から変わっていると言われるのは「漂白剤」の匂いだ。苦手な人もいるらしいが、私にとってあの匂いは心地いい。

 

スペインでの掃除では「Lejiaレヒア」と呼ばれる漂白剤をとても頻繁に使用する。

スペインの家は基本土足なので家の床掃除は箒で掃いた後モップ掛けで仕上げるのだ。この時によくレヒアを使うのだが塩素系の漂白剤の匂いが「清潔になりました!」と脳に直接語りかけてくるようでうれしい。

 

漂白剤と言えば私が中学生の頃、家に帰ると母が赤くなった頬を押さえて鏡を見ていたことがあった。どうしたのか?と尋ねてみると「キッチンハイターで顔のシミが取れないかな?と思ってちょっとつけてみたんだけど、痛いわ」と驚きの回答が返ってきた。そんなことダメに決まっている。子供でも分かることではないか。

バカなのか? 私の母はバカなのか?

私が責めると「だってぇ~」と悲しい顔で誤魔化す母。まるで子供のようだ。

「キッチンハイターで布巾のシミは取れるが、顔のシミは取れない」と身をもって証明した母。

 

頬を赤くさせながら「でも、キッチンハイターのニオイっていい匂いよね」と笑う母につられてこっちまで笑ってしまった。

 

今でも母娘そろってキッチンハイターのニオイが大好きだ。