スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

挨拶

日本食レストランで働いていた頃、日本語を習っている常連さんがいた。いつもはお昼のランチを食べにやってくる昼の常連さんなのだが、その日は珍しくお友達を連れて夜のレストランへやって来た。

予約表に名前があったのでドアの前で来店を待っていると、

「おやすみなさい!」と元気いっぱい大きな声で彼が入って来たのである。

「おやすみなさい」???

 

「おやすみなさい」の使い方が間違っている。

 

しかし、彼は自信満々の笑みを浮かべお友達に「僕はここの常連なんだ。日本語できるから日本語の挨拶したんだ」とアピールしているようなのだ。

お友達の前で恥を掻かせるわけにもいかないので間違いは訂正せずスルーしておく。

私の素敵な配慮のお陰で彼はその後も終始ご機嫌でお友達と食事を楽しんでチップも弾んでくれた。

そして店を出る時にまた

「おやすみなさい!」と満面の笑みで出て行ったのである。

今度の「おやすみなさい」は正解だ。夜も更けたこの時間の別れの挨拶として「おやすみなさい」は正しい。

 

彼がなぜ「おやすみなさい」と言ってお店に入って来たかというと、本当は「こんばんは」と言っているつもりなのではないかと私は推測する。なぜなら「おやすみなさい」に当たるスペイン語「ブエナス ノチェス」には「こんばんは」の意味もあるのだ。

 

Buenos días ブエノス ディアス = おはようございます

Buenas tardes ブエナス タルデス = こんにちは

Buenas noches ブエナス ノチェス = こんばんは、おやすみなさい

 

後日、彼がランチに来た時に「おやすみなさい」の使い方を説明したら「日本語難しいよ~」と照れ笑いをしていた。私も日々スペイン語の言い間違いをしている身なので彼の気持ちが痛いほどよくわかる。

 

挨拶の言葉と言えば、スペイン語ではもっとフランクな「Holaオラ」がある。(やあ、こんにちは)

オラは便利だ。何時だって使える。朝でも、昼でも、夜でも、子供にもお年寄りにも。人に会ったら言えばいい。

お店に入る時もオラと声を掛けてお店に入るのがスペインの常識だ。

 

売店で働いていた時、イタリア人とおぼしき観光客が「オラ!」と言って店にやって来た。そこまでは至って普通の出来事だが、彼らは店を去る時にも「オラ~」と言い放ったのである。誰かが入って来たのかと思って笑顔でドアを確認するが、イタリア人たちが去って行くだけで誰も入ってくる人はいない。行き場をなくした笑顔と共に腑に落ちない気持ちになる。

一体今のは何だったのだろうか?

そしてまた別の日も店内にいたイタリア人の若者グループが「オラ~」と言って店から出て行った。

まただ。またイタリア人だ。オラと言って店から去って行くのはいつもイタリア人だ。

 

「オラ」の使い方が間違っている。

 

イタリアでは「チャオ」と言って店に入り「チャオ」と言って店を出る。

初めの「チャオ」はやぁ!とかこんにちは!で、最後の「チャオ」はバ~イだ。

彼らは「チャオ」を素直にスペイン語に訳して「オラ」と言っているようなのである。

したがって、店に入って来る時も出て行く時も「オラ」と律儀に挨拶していくのだ。 彼らに罪はない。

天下のグーグルさんの翻訳でも「Ciao」のスペイン語は「Hola」と出てくる。

スペインでも別れ際の挨拶として「チャオ」と言ったりもするので、下手にスペイン語なんかにせずにイタリア語の「チャオ」で去って行ってくれれば何の問題もないのに残念だ。

 

「Holaオラ」と言えば前にも書いたことがあるが、スペインの映画館で「たそがれ清兵衛」を見た時に、

門の前で「たのも~」と言っているシーンのスペイン語字幕が「Hola」だったのは衝撃的だった。

そりゃいくら何でもフランクすぎやしないかい?お前さん。

 

挨拶って奥が深い。