スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

物乞いと大道芸人

スペインには物乞いと大道芸人がたくさんいる。

私は「働かざるもの食うべからず」の国で育ったので、芸を見せてくれる大道芸人にはお金を払うが、物乞いにはお金はあげない主義だ。だがキリスト教徒の多いスペインでは結構みな物乞いにもお金を恵む人が多い。物乞いにも色々な種類があり、道端でござをひきただただ座っている人や、バルやレストランに勝手に入ってきて客に小銭が入ったコップを突き出しねだってくる人、電車内で自分がいかに悲惨な状況か切々と訴えながら寄付を募る人など色々だ。

 

ある日テラスで食事をしていた時、物乞いが来たので無視をしていたのだがあまりにしつこいのでタバコを一本あげて帰ってもらおうと思った。

「はい。タバコ一本あげるから。これでいいでしょ。」と優しくタバコを手渡すと

「このタバコってメンソール?」と思わぬ質問が帰ってきた。

「そうだけど。」というと物乞い君はしかめっ面で「えー、メンソールかぁ」と私のタバコに文句を言ってくるではないか!

確かにスペインでメンソールのタバコは人気がない。生殖器に支障がでるとの都市伝説が広く信じられているのだ。したがって人気のないメンソールは一般的な自動販売機では売っていない。欲しい場合タバコ屋に行かないと手に入らないのである。

スペインでは外でタバコを吸っていると見知らぬ人から「一本頂戴」と言われることがよくあるが「メンソールだけど、大丈夫?」と聞くと大抵の人は「それならいらない」と言ってくる。

私だってメンソールの人気がないことはよく知っているのだ。日本人以外の友だちは私にタバコをくれと言ってこないことも気づいていた。が、物乞い君にも断られるとは!どんだけ人気がないんだ!

「そんな顔するんだったらタバコ返して」と言うと先程の物乞い君は「わかったよ。いいよ、いいよ。メンソールでもいいよ。これもらっておくよ。」と言いながらも

「メンソールかぁ。。。」と肩を落として去っていったのだった。

 

広場にいる大道芸人とは別にメトロに乗ってきて音楽を奏でお金を稼ぐ人も多い。

ただうるさいだけの演奏もあれば、乗客みんながのりのりになるような素晴らしい演奏が聴けるときもある。中には踊り出す乗客などもいて見てるこっちまで幸せな気分になると自然にチップもはずんでしまう。稼ぐ人はメトロでの演奏だけで普通の人の給料と同じくらい一ヶ月に稼げると特集番組で見たことがあるので、それはもう立派な職業だなと感心する。

 

杖をついたおじいちゃんがメトロに乗ってきて突然杖と足を使ってフラメンコのリズムをたたき出す。激しい動きはしないものの、難しいステップを飄々とやってのけるその姿はこなれている。そして次の駅が近づいてくるとかぶっていた帽子を逆さにし、見ていた人からチップを集めるのだ。あのおじいちゃんは一体一日でいくら稼ぐのだろうか?

 

広場には明らかに違法だと思われるばったモンの着ぐるみを着て風船やらを売ったり、写真を一緒にとって稼ごうとしている輩が一定数いるのだが、クオリティの低さに唖然とする。よくお見かけするのが、ミッキーもどき。微妙な顔つきのミッキーの手元は人間の手だったり、暑い日にはミッキーの顔の下から人間の顔を覗かせたりしている。

おとぎの国から訴えられそうだし、子供たちの夢もへったくれもない。スペインの子供たちは小さな頃から着ぐるみの中は人間、という現実と共に成長していくのだ。私は一度お祭りで、顔を出したスパイダーマンが手を後ろに組まれ警察に連行されていくのを見たことがある。なぜつかまったのかは知らないが、その姿はとてもシュールで切なかった。