スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

スペインの長いクリスマス

11月最後の週末あたりから街中にクリスマスのイルミネーションが輝き出す。クリスマスはスペイン人にとって一大イベントなので実際には夏のバカンスが終わると今年のクリスマスについての話題ばかりになる。

スペインでクリスマスと言うとだいたい12月22日から1月6日までをさすことが一般的だ。

 

12月22日 

この日はスペイン人にとっての年末ジャンボ宝くじ(loteria de navidad)の発表の日だ。子供たちはこの日から学校が冬休みになり、朝からテレビ中継で宝くじの抽選会が放映される。ラジオも一日宝くじ。大人たちは普通に仕事をしている日だが、皆ラジオやらテレビやらネットやらで宝くじの結果を注視している。誰も彼も仕事どころではない。宝くじの抽選は毎年選ばれた子供たちが独特のメロディーに乗せて当選番号と当選金額を高らかに歌って知らせる。この模様は全国放送されるため、どの子供も緊張の面持ちでとても微笑ましい。

午前中の職場やバルでは、どこそれの街の販売所で3等が出ただのなんだの話題で持ちきりだ。そして高額当選が出た街の販売所は生放送で当選者たちの声を届ける。スペインのこの宝くじは日本とは違い、同じ番号がたくさん存在するため当選者は一人ではなくその番号を買った人全てとなる。そのため時に小さな町で町民全員が当選なんてミラクルが起こったりするのだ。当選者達は派手にシャンパンを開け喜びを爆発させた顔でテレビに映し出される。その様子を当たらなかった人々はがっかりしつつ来年こそは私が!と心に誓いながらクリスマスが始まるのである。

 

12月24日 

クリスマスイブ(Noche buena)の日は仕事がお昼までで終了する会社が多い。遅くとも夕方にはスーパーもレストランもバルもメトロもバスも終わってしまう。皆仕事が終わると同僚と「よいクリスマスを!」とベソをし合い意気揚々と帰宅してゆく。この日最も忙しいのはママ達だろう。家族で集まるためこの日のために準備した食材をいそいそと家族の好物たちに変身させてゆく。

この日に一人で過ごすことは最も悲しいこととされ、独り身の場合は皆に「どこで過ごすのか?」と心配される。たとえクリスマスに興味がなく、家で一人で過ごしたいと思っているとしてもそれをスペイン人に伝えてはいけない。この世の終わりのような目で「なんてかわいそうな人なんだ」と思われるのがオチだ。そして哀れな人をほっておけないスペイン人達は「うちに来い」と口々に誘ってくる。一人で過ごしたい人にはこの上ないおせっかいだと思うだろうが「一人で過ごす」と言った方が悪い。一人で過ごしたいのなら誰にも言わず、多少の嘘をつくしかないのだ。冷ややかな目が怖いので私はスペインに滞在していた10年間クリスマスを一人で過ごさないように細心の注意を払っていた。留学時代は留学仲間と、その後は友達や彼、彼の家族と過ごし、郷に入れば郷に従えの精神でスペイン流のクリスマスを過ごし、スペイン人達に心配されないように正しいクリスマスの過ごし方を実践していた。

そして24日の夜は街から人が消え、家々からおいしそうな匂いと楽しそうな笑い声が響くのだ。(一人だとマッチ売りの少女状態になるので気をつけよう)

 

12月25日 

クリスマス(Navidad)は国民の祝日。前日に夜更かししていることが多いのでみな朝寝坊。そんな中早起きするのは子供たち。クリスマスツリーの元へ一目散でプレゼントを開ける。ただし、スペインではプレゼントは1月5日の夜に東方の三博士(los reyes magos)がプレゼントを運んでくるのが今でもメインのため25日のプレゼントはそれほど高価なものではなくちょっとした物が多い。昔のスペインでは12月25日はプレゼントをもらえる日ではなかったことを思うと現代の子供たちは2回もプレゼントが貰えて羨ましい。(親にとっては出費がかさむのでどちらか一回だけの方が助かるのだが)

25日の昼過ぎ頃から一応交通機関は動きだすが、この日も食べて飲んで話しての一日だ。結婚している人は24日は嫁の実家、25日は旦那の実家などと分けて実家へ帰ってご飯を食べるのでとても忙しい。

 

12月28日 

Día de los Santos Inocentes 日本で言うところのエイプリルフール。新聞やニュース番組でお茶目なフェイクニュースが流れたりする。

 

12月31日 

晦日(Noche vieja) この日は24日と同じくお昼までで仕事が終わる。この日も仕事終わりには「良いお正月を!」とベソをし合って帰宅。日付が変わる12時に12粒のブドウを食べる習慣があるのでスーパーのブドウは年内一の最高値になる。(ブドウの用意は早めにするのが得策です。)

この日も夕食は家族と過ごし、テレビは大晦日の特番だらけだ。首都のマドリードの中心部ソル広場の時計台の鐘に合わせてブドウを食べるためソル広場は夕方から規制され全国放送すべく各局のテレビクルーやブドウとシャンパンを持って場所取りする人々で賑わい出す。

因みに前日の30日のお昼の12時には31日の本番前のリハーサルとしてソル広場の時計台で鐘を鳴らすので、地元の人などは激込みの31日を避けて30日の昼にこの鐘を聞きに来たりする。

 そして待ちにまったニューイヤーの瞬間、全国の人々が思い思いのチャンネルにテレビを合わせ(とはいってもどこのチャンネルもソル広場の時計台の生中継)、テレビのプレゼンターはアカデミー賞さながらのドレスアップ、もしくはサーカス団の一員なのか?と思うほどの気合の入った不気味なドレスで場を盛り上げる。テレビに映るソル広場に集まる人々はクリスマスマーケットで買った意味不明のカツラやサングラスで新年が来るのを待ちわびている。

そして12時になると12回の鐘がなるので鐘の音に合わせてブドウを一粒づつ頬張っていくのがスペインの伝統。来年12月間無事に過ごせますようにと願いを込めながら、一定リズムに合わせてブドウを頬張るのだが、実はこれ、簡単に聞こえるが意外と大変なのだ。まず、途中で他の人の顔を見たりして噴出してしまいそうになったり、粒の大きなブドウばかりで口の中が一杯になったり、種や皮が邪魔して上手く飲み込めなかったりする。私は事前にブドウの皮を剥き、種も取って用意するのだが、それは邪道だとかケチをつけてくる人もいる。でもスーパーでも12粒づつご丁寧に皮と種を取り除いたセットも売られているくらいなので、今となっては邪道とはいえないくらい市民権を得ているやり方だ。 無事に12粒のブドウを飲み込むと「Feliz Año Nuevo!新年おめでとー」と言ってその場にいる人全員とベソしてハグして新年をお祝いする。

基本的に年越しのブドウは家で家族と食べるが、年が明けると若者たちはめいっぱい成人式さながらの正装でおしゃれをして新年パーティーが開催されるディスコテカに繰り出してゆき、夜中の2時から朝まで飲んで踊ってのドンちゃん騒ぎを繰り広げるのだ。

 

1月1日 

元旦(Año Nuevo)祝日 前日の狂乱で皆寝不足だったり二日酔いだったり。家族でゆっくりおとなしく家出過ごす。

 

1月2日 

なんとスペインでは2日は祝日ではないのでこの日から仕事をする人も多い。

 

1月5日 

Cabalgata de Reyes Magos東方の三博士のパレード。この日も24日や31日と同じように夕方までに仕事は終わる。そして5日の夜中にやってくると言われている東方の三博士のパレードが夕方から各地で行われる。Cabalgataと言われるパレードはまるで東京ディズニーランドエレクトリカルパレードさながらだ。

東方の三博士の仮装などをした大人や地域の子供たちが音楽とイルミネーションの施された特設の車でパレードする。エレクトリカルパレードと違うのは日本の節分の成田山のごとくパレードの車から沿道の人々に向かって飴を投げていくことだ。大量の飴をパレード中ずっと投げならがら進んでいく。沿道の人々も飴を求めて手を伸ばす。子供たちは飴入れ袋を持参し、沿道の最前列を陣取り次々と飴をゲットしていくのだ。大人もみんな飴を拾い、中には傘を逆さにして顰蹙をかったり、スーパーの袋に落ちている飴を取りこぼさないように拾い集めてゆく。パレードの車に乗っている子供たちは始めこそ自慢げに車に乗って飴を配る自分を誇らしく思いながら飴を投げているが、パレードの後半にもなると飴の投げ方も投げやりになる。私が見た一番のつわものは開けた飴の入った袋をそのまま逆さにして一番前にいた子供の袋にごっそり全部与えていた。

私の友達の子供とパレードを見に行った後に子供がゲットした飴の数を数えてみたら300個越えの量だった。子供たちは一年分の飴ちゃんをこの日に稼ぐのだ。

そしてこの日の夜中、子供たちのプレゼントを東方の三博士が運んでくるのだ。

 

1月6日 

El día de Reyes東方の三博士の日 祝日。この日の朝こそプレゼントの本番だ。子供たちはワクワクどきどきしながら目を覚ます。なぜなら一年良い子だった場合はプレゼントが、悪い子だったら墨(砂糖で作った墨の偽物)が枕元に置かれるのが慣わしなのだ。なのでスペイン人の母親たちは一年中悪いことをするとレジェスマゴがプレゼント持って来てくれないよ!と脅すのだ。どこの世界の母親もサンタだのなんだのを使って子供をコントロールするのである。プレゼントを喜んで開ける子供たちと、もらったプレゼントの品定めをする大人たち。この日も家族でご飯を食べ、長かったクリスマスシーズンに幕を下ろす。

街中に飾られていたクリスマスのイルミネーションも1月6日をもって終了する。

以前はクリスマスが終わりを告げた翌日の1月7日は全国一斉に冬のバーゲンの開始日であったが、法律が改正されたのも後押しになって年々バーゲンの開始が早まっているので一昔前の風物詩だったバーゲン初日の一番乗りおばさんのニュースが見れなくて残念だ。