ちょうどいいマドリード
マドリードは私にとって特別な場所。8年も暮らした居心地のいいところだ。
交通網が発達しているので市内はメトロやバスでどこでも行けるし、スペイン国内の旅行でもマドリードを中心にどこへ行くにも便利だ。
メトロは終電があるものの、市内は深夜バスが走るため終電後でも家路に着けるし、中心部は歩いてまわれる。
とにかく散歩していて気持ちいい。公園もあるし無料で入れる美術館もたくさんある。おしゃれなカフェから、おやじバルと私が呼んでいる昔ながらのバルもある。
食が合うというのも長く暮らせる要因だったと思う。スペイン料理は好きでもさすがに毎日食べだすと疲れてくる。
そんな時はやっぱり和食に限る、その点マドリードには日本食材を取りそろえた中華系スーパーがたくさんあるのでとても助かる。
一昔前までは日本に一時帰国するたびにスーツケースに入る限りの日本食材を持ち帰ってきていたが、近年はそこまでしなくても簡単に現地で手に入るようになりとても便利になった。
日本食レストランもたくさんあるし、中華料理やピザにケバブと食には困らない。スペイン料理以外のレストランが比較的たくさんあるのもマドリードの良い点だ。スペインの各地の名物料理もマドリードではすべて食べられる。
そして8年も暮らせた最大の要因は「外国人であっても溶け込める」ということ。
人種差別は存在するものの、多種多様な人々が混在する社会においてそれは住みづらさとは直結しない。
マドリードにはさまざまな人種の人が暮らし、生活し、根付いている。外国人であってもりっぱなマドリード市民になれる。
距離感もちょうどいい。ほどよくほっておいてもくれるし、知らない人同士で話したりもする。
店に入れば「HOLA」と声を掛け合い、「友だちの友だちは皆友だちだ」と昔タモリさんが言っていたように輪が広がる。移民も多いので色々なルーツの人たちと知り合える。外国人でも浮かない。じろじろ見られない。
マドリードでは役所でも銀行でもスーパーでも皆必ずスペイン語で話しかけてくる。まずスペイン語。どこの国の人であってもスペイン語を話せば現地人になりうる。
現地に住む日本人あるあるの一つに「スペイン人に道を聞かれる」というのがある。
考えてみてほしい、日本で道に迷ったときに明らかに日本人ではない人に道を聞くだろうか?
スペイン人は聞くのである。普通に。かなりの確率で。
「そこに山があるから」と同じ理由で「そこに私がいたから」目の前の人が例え外人であってもそこにいる人に道を聞く。ただそれだけなのだ。
スペイン人はよく道を聞くし、道を聞かれたら必ず教えてくれる。ただ、間違ったことを言ってくる確率も高い。
道を聞かれたとき、知らなければ知らないと言えばいいのにスペイン人たちは「知らない」とは言わない。「きっとあっちだ」とか「確か右だ」とか不確実な情報を伝えてくる。とりあえず何か言わなければ気が済まないらしい。そしてその情報を信じて右に行ってみても見つからず、またその場の人に道を尋ねると今度は「左だ」とか言われる。
けして嘘を教えているわけではなく、だますつもりもないのだが、いかんせん「知らない」「わからない」となかなか言わない人たちだし、親切心からとりあえず何か言わなければと思っている節もあるので憎めない。
スペインで道を聞くときは一人じゃなく何人かに聞いてみた方がいいのでご注意を。
話が逸れたが、とにかくマドリードは住みやすい。すべてがちょうどいいのである。
心地よい。
そんなマドリードで唯一残念なのは海がないこと。本当にそこだけが残念。スペインの真ん中に位置するのだから海がないのはしょうがない。その代わりどこに行くにも便利な立地になっているのだが、一番近い海まで車で4時間というのは悲しい。
私は日本人に大人気のバルセロナより断然マドリード推しなのだが、
バルセロナでビーチに立った時心の底から羨ましいと思った。
マドリードに海があったら最強だったのにと思うが、こればっかりはしょうがない。
完璧じゃないところもまたちょうどいいのだ。