スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

駄菓子

駄菓子屋というものは日本だけのものかと思っていたが、スペインにも似たようなものが存在する。何を持って日本だけの風景だと思い込んでいたのかはわからないが、スペインでも子供が小銭を握りしめて駄菓子を買うという事を知った時はなんだか妙に親近感が沸いた。

 

スペインでは駄菓子屋のことを「チュチェリア」と呼ぶ。何とも可愛い言葉の響き。

量り売りされているのは色とりどりのゴロシーナと呼ばれるグミみたいな甘くて弾力のあるお菓子。ちょっと酸っぱいやつとか、なぜか目玉焼きの形をしたやつとか、砂糖をまぶして平べったいひも状になったやつとか、なかなか表現に困る代物ばかりだ。      だいたい子供が喜ぶ食べ物というものは合成着色料がっつりで砂糖どっぷりのいかにも体に悪そうな代物だという事は世界各国変わらない。

 

チュチェリアには甘いグミ系の商品の他にもガムや飴、ドライフルーツやナッツ類、そしてスナック菓子など子供が喜ぶお菓子がたくさん売られている。いや、喜ぶのはなにも子供だけではない。マドリードで働いている頃、同僚とランチを食べる店の近くにチュチェリアがあったのでよく帰りに立ち寄って駄菓子を買ったが、大の大人であろうとも小銭を握りしめて何をどれだけ買うかと真剣に頭を悩ませる姿は子供の頃と何ら変わらないのだ。

 

私の生まれ育った場所は東京の東側で、小学低学年の頃までは「紙芝居屋さん」なるものがまだ健在していた。

私の年代で「紙芝居屋さん」を体験している人はとても少ない。「紙芝居屋さん」とは自転車に紙芝居と駄菓子を積んだおじいちゃんがやってきて子供を集め、水あめやソースせんべいなどを買ってくれた子供たちに紙芝居を聞かせてくれるという代物だ。

正直言っておじいちゃんの読む紙芝居は月光仮面など当時の私ですら「古すぎ~!」と突っ込みたくなるような一昔前の物語ばかりだったので話自体はあまり面白くなかったのだが、声色を変え臨場感たっぷりに話を読んでくれるおじいちゃんの演技は子供ながらに興奮したのを覚えている。

30円や50円そこらで味わえるおじいちゃんの熱演。私にとって人間国宝だ。

 

そう言えば昔はこの手の移動販売がたくさんあった。

豆腐屋さんや、日石灯油、チャルメラのラーメン、石焼き芋。どれも独特な音楽や掛け声でお客を呼び寄せる。

日石灯油の「日石灯油でほっかほか~日石灯油だもんね!」は今でも歌えるし(それにしても「だもんね!」って凄い歌詞だなぁ。私の記憶違いかと思ったがYOUTUBEで探したら「だもんね!」とちゃんと言っていた)

ホットドック屋の「ホット~ドック~、ホット~ドック~」の曲も頭から離れない。今買わなければ次にいつ会えるかわからないという神出鬼没さが移動販売の魅力だ。

 

スペインではあまりこの手の移動販売には遭遇しなかった。

屋台とか出店のような形態は結構あるが、本当に移動しながらというスタイルは、ぴーひゃらぴーひゃらと自転車で来る刃物の研屋さん(包丁やハサミを研いでくれる)と、マドリードのバジェカスという地域に出没していたメロンの移動販売ぐらいしか記憶にない。軽トラでメロンを販売しに来るおじさんが「安いぞ!安いぞ!最高のメロンがこの値段!買わなきゃ損だぞ!」とやたらとドスの効いたダミ声で叫んでいた風景はバジェカスと言うガラの悪い地域の印象と見事にマッチしていて妙に微笑ましい。(バジェカスはマドリード市内の中でもガラが悪い地域として有名だが、4、5年住んでいた私にとっては住みやすい思い出の土地だ)

 

私の遠い記憶の「紙芝居屋さん」を思い出すからなのかわからないが、例えドスの効いたダミ声であっても移動販売に出会うと何故だかウキウキしてしまう私であった。