スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

笑いの威力

スペイン人はよくジョークを言うのだが、初めは全く理解できず苦戦した。

スペイン人は自分が面白いジョークを飛ばしたのに目の前の人がクスリともしない状況が耐えられないらしく、私がわかるまで説明してくるのだが、説明されている時点でもう笑えない。簡単なスペイン語に直してもらってジョークの全貌が見えたとしても、大抵の場合「あ~なるほど」ぐらいで大爆笑には程遠い。

 

これはもう語学うんぬんの問題ではないのだ。

スペイン人が好むブラックジョークには下ネタや差別、時に政治、宗教、時事など様々な要素が含まれるため、スペイン人の国民性や考え方、各地域の文化など総合的に理解する必要がある。その土地で何年か暮らさないとなかなか地元の人のジョークにはついていけないのだ。 

私も10年という月日をかけてなんとか笑えるようになったが、今でもやっぱりスペインジョークは難しい。しかもこの時に一番大切なことは、ジョークを日本語に訳して理解しようとしてはいけないという点だ。

スペイン語のジョークを日本語に訳して面白かったことなど一度もない。スペイン語のジョークはスペイン語で咀嚼しなければ笑えないのだ。

 

したがって、ジョークを日本語に訳してと言われる事ほど辛いことはない。これはきっと逆もしかりだと思う。日本語のジョークを他の言語に訳したとして、世界の人みんなが爆笑するかは疑問である。

ピコ太郎のPPAPで有名になった時の同時通訳の橋本美穂さんレベルでないと難しいだろう。

 しかしどんなに優秀な橋本さんレベルの通訳者だとしても第三者として介入した時点で純度は下がってしまう。ピコ太郎のジョークより橋本さんが意訳したジョークの方が面白くて会場が大爆笑なんてことも起こっていたが、こうなるとピコ太郎が面白いのではなくて橋本さんが面白いってことなのでは?と複雑な気持ちになってしまう。

本家より面白くなっていいのか?

 

ジョークは言葉を理解する必要があるが、人がコケたり失敗する映像は言語関係なく万国共通でウケがいい。

 

スペインで何度も何度も再放送され続けている日本のバラエティ番組があるのだが、なんとそれは「風雲たけし城」なのだ! 

スペイン語のタイトルは「ウモール アマリ―ジョ」黄色いユーモア・・・

(黄色・・・差別発言に対して敏感になっている昨今の世界でこのタイトルは果たして大丈夫なのだろうか?)

 

風雲たけし城」とは1986年5月から1989年4月までTBSで放送されていた視聴者参加型のアトラクションバラエティ番組のことだが、もしかしたら今どきの日本の若い子はこの番組を知らないかもしれない。素人が体を張って様々なアトラクションに挑み失敗して泥池に落ちる様は面白く、子供から大人まで幅広い層に人気の番組だった。

しかし、どんなに面白い番組だったとしても次から次へと始まる番組に押されて「風雲たけし城」なんてすっかり忘却の彼方に消えていた。

それなのに、日本から遠く離れたスペインで30年も前の日本のバラエティ番組が放送されている。

スペインでこの番組を見た時は本当に驚いた。

ドラえもんクレヨンしんちゃんなど日本のアニメが放送されているのは知っていたが、まさか「風雲たけし城」とスペインで再会するとは夢にも思っていなかった。

少々古ぼけた画像の粗い画面の中でとても若いたけしが殿様の恰好で笑っている。一気にタイムスリップした感じで画面にくぎ付けになると画面の中の人が足を滑らせて泥の池に顔から落ちて行った。

そこで同時に起こる大爆笑。一瞬の時差もなくスペイン人も日本人も字幕も音声も関係なく笑えるこの威力。素晴らしい。笑いは世界共通。言語の壁なんて存在しないのだ!

風雲たけし城」がこんなにも尊い番組だったとは知らなかった。