嘘
スペイン人はたまに「どうでもいい嘘」をつく。
スペイン人の名誉のために言っておくが、スペイン人全員が嘘をつくわけではない。
ただ、スペインで暮らした10年間で私はそれはもうたくさんの「どうでもいい嘘」と出会ってきたのだ。
笑って許せるレベルから笑えないレベルまでその嘘は実に多彩だ。
レベル1 「もうすぐ着く」 「ほぼほぼ到着している」
彼らは何故だかわからないが到着時間について嘘をつく癖がある。したがって、このように言われた場合文字通りに考えてはいけない。きっとあと5分はかかると思った方がいい。
「今向かっている」も曲者だ。この場合、最悪まだ家にいるなんてこともある。実際シャワーから出てきたばかりの彼が友達からの電話に「もう向かっている」と飄々と答えているのを何度も目撃したことがある。それは嘘に値するのではないのか?と聞いてみたのだが待ち合わせの場所へ向かうプロセスに入っているのだから嘘ではないとキッパリ自信満々に断言された。
したがって「もうすぐ着く」とか「向かっている」と連絡が来たときは「待ち合わせを忘れているわけではない」と言う唯一の希望の光を胸にのんびり構えるのが正解だ。
レベル2 間違った道を教える
道を聞かれた時に本当は知らないのに「たぶん右」などと適当なことを言う人が一定数いる。「知らない」と正直に答える方が間違った道を教えるより何倍もマシなのになぜか「知らない」と答えたらかわいそうだと思うらしい。親切心が裏目に出るパターンだ。
この場合は一人の人だけではなく出会う人ごとに道を尋ねればおのずと正解の道へたどり着くことが出来る。最初に聞いた人の言葉だけを信じてどこまでも行かないように気を付けたい。
レベル3 履歴書にあきらかに能力以上のスキルを記載する
はっきりとした資格やテスト結果などの記載なく履歴書に「英語が堪能」と書かれている場合はまず疑った方がいい。彼らは躊躇なく「堪能」などと書くが「堪能」についての概念が私が知っているものとは同じではないようなのだ。
友達や知り合いにスペイン語の履歴書のチェックをしてもらった時「学校で英語を勉強したなら英語ができると記載するべきだ」と何度も言われたことがある。履歴書に書けるレベルの英語能力ではないと説明しても勉強したのに変わりはないのだから書いとけ!とアドバイスされるのだ。実際友達はあいさつ程度のフランス語も履歴書に初級レベルと書いていたし、日本語中級レベルと書かれた履歴書の主と日本語での意思の疎通が全く取れなかったこともある。
友だち曰く、「履歴書なんて書いたもん勝ち。採用さえされればどーとでもなる」らしい。本当だろうか?後から嘘がバレたら大変なことになるのではないかと心配で私には無理だ。誇大広告だと訴えられたら負けそうである。
レベル4 ミスをしたのにシラを切る
スペインの職場では「ミスした犯人をいくら探しても犯人が見つからない」という怪奇現象が度々起こる。どんなに些細なミスでも犯人は現れない。大抵はその場にいない人のせいになる。私はいつも何となく犯人の目星がつくのだが、口を挟むと途端に火の粉がこちらに降りかかるので黙ることを学んだ。
私がミスをした時、犯人探しが始まる前にあっさりと手を上げ自白したら仲の良い同僚に「そんな事自分から言わない方がいい」とたしなめられた。何でもかんでも正直に言えばいいってものではないらしい。しれっとシラを切り通す神経も時には必要なんだとか。(どんなアドバイスだ!)
レベル5 家に居たはずなのに不在票がポストに入っている
荷物が届くのを家で待ち構えているのにもかかわらず、一向にやってこない郵便物。 業を煮やしてポストを覗いてみると不在票が入っている。不在票によると「11時半と14時に届けに来たけど留守だったので郵便局に持ち帰ります」とある。
はい?ずーっと家に居ましたけど?家のチャイム壊れていませんけど?
なんすか?この見え透いた嘘は。届ける気あります?などといちいちキレていてはスペインでは暮らせない。
無の境地へ至るまでの修行だと思って精進するのみだ。