スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

姑という名の魔女

結婚には至らなかったので厳密には姑と呼べないが、それらしい人物が私の人生でも登場したことがある。

スペイン人の彼のお母さんだ。一般的にスペイン男性はマザコンだと有名だが、私の彼も例外に漏れずマザコンだった。そして彼のお母さんは私にとって最強最悪の姑であった。この書き出しからもわかる通り、私と彼女の相性は最悪だった。息子を挟んで繰り広げられる三角関係。

 

彼が私の住む家に押しかけてきて同棲が始まったのだが、なんせ二人で住むには小さすぎるワンルームだったためとても手狭だった。マドリードの中心地だったため狭くても家賃はそれなり。そこで彼から「僕の家に引っ越してくればいいよ!」と素敵な提案を頂いた。なんでも彼のお母さんは彼のお姉さん夫婦がいる地方都市に滞在しているため現在マドリードの家には彼以外住んでいないという。中心地からは若干離れるが家賃も無料だし文句はない。早速ワンルームの契約を解約し彼の家へ転がり込むことにした。

しかしこの決断が大間違いだったのだ。

 

引っ越して3週間が過ぎた頃、彼のお母さんが私たちの住む家にやって来た。私たちの住む家と言っても彼のお母さんの家なのでいつやって来ても文句は言えない。この家は寝室が3つだがお風呂とトイレが2つあるのでお母さんがやって来てもそれ程支障はない。いつまで滞在する気なのだろうか?と気になるが、家の家主にそんなことはなかなか聞けないので彼に聞いてみると、しばらくこっちに滞在するとのことだった。しばらくって一体いつまでのことだろうか?

一抹の不安が胸に広がる。

そして嫌な予感というのは残念ながら驚くほどよく当たる。

彼のお姉さんと電話で話す機会があったのでさりげなく探りを入れてみたところ、なんと彼のお母さんは私に家を乗っ取られるのが心配でがっつり戻って来たようなのだ!

彼のお母さんが戻ってくると知っていたらワンルームを解約なんてしなかったのに!

時すでに遅し。

そしてそれから10か月間に渡り3人の奇妙な共同生活は続いた。

 

彼のお母さんの一番の問題点は、私のことを息子を奪い去る悪魔だと思っていること。被害妄想も甚だしいってものである。女手一つで育てた最愛の息子が東洋の女にそそのかされ自分の元から離れていくのではないかと戦々恐々としているのだ。悪魔に対抗するために鋭くなっていく眼光。そして姑の風貌ははどんどん魔女っぽくなっていった。

私は、私のことを嫌いな人間とは極力関わらないで済むように生きてきたのに、家に帰ると私のことを世界一嫌いな魔女が待ち受けているのである。これはきつい。

 

結局、10か月後に音を上げたのは私だった。

東洋の悪魔と西洋の魔女の戦いは西洋の魔女に軍配が上がったのだ。

 

敗北感に打ちひしがれ、別れを覚悟の上で家を出たのだが、結局この引っ越しに彼もついてきてしまったため、私と魔女との関係は修復されるどころか悪化の一途を辿ることとなった。しかし私たちが家を出てほどなくすると彼女は唐突に元いた地方へ帰って行ってしまったのである。

長かった一年がそうして幕を閉じたのだ。

その後、彼と別れるまでの数年間は冷戦状態が続き、そして結局最後まで和解することなく彼女は私の人生から去って行った。

 

別れた後でも魔女は時々夢に登場し私を苦しめた。どんだけ魔力が強いんだ!

恐るべし西洋の魔女!

 

こんな出来事があったので姑と良い関係を築いている人を見ると尊敬してしまう。魔女に打ち勝つ秘薬などがあるのなら是非頂きたいものだ。