スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

運転免許

突然だが、私は車の運転ができない。

私には前を見て左右を確認して何なら後ろまで気を配りながら車を運転するという能力が備わっているとは思えないのだ。したがって免許が取れる年齢になっても免許を取ろうとは思わなかった。

車を運転したことがないので、車をひょひょいと運転する人に憧れる。

マニュアル車を運転する人に至っては無条件降伏だ。特に女の人がマニュアル車を操作する姿は神々しい。前を見ながらガチャガチャと手を動かす動作がやたらとかっこよく見えるのはなぜだろうか?

 

日本では年々見かけなくなっていっているマニュアル車だが、スペインでは今でもマニュアル車が多い。

一度スペイン人にオートマ車について聞いてみたら「あれはここ(頭を指して)が足りないやつが乗るんだ」と恐ろしい発言をしていた。ブラックジョークってやつだと願いたい。オートマ車が高くて買えない人のひがみだと思って聞き流してあげよう。

 

スペインで働いていた時、同僚の中国人のジンちゃんが何やら勉強をしていたので何の勉強をしているのか尋ねてみた。すると教習所に通い始めたんだと嬉しそうに返答してきた。異国の地で教習所に通うなんて凄いではないか!

同じ頃に日本人の友人がスペインの教習所でスペイン語での講義に悪戦苦闘していたので母国語ではない言語で免許を取ることの大変さを多少ながらも理解しているつもりだ。しかしジンちゃんのスペイン語レベルは私とどっこいどっこい。このレベルで無事に免許が取れるのだろうか?

スペイン語で講義受けるのは難しくない?と心配するとジンちゃんはきょとんとした顔で「中国人の教習所だからスペイン語関係ないよ」と言ってくる。

なぬー!中国人の教習所だと!なんだそれは!と私の頭の中は「??」でいっぱいだ。

「中国語だけで免許が取れるの?先生は中国人なの?その免許はスペインでもちゃんと使えるの?そもそもそれって合法なの???」と畳みかけるように質問するとジンちゃんはすべての質問に「当たり前じゃん!」と言ってドヤ顔を見せてくる。しまいには「日本人用の教習所ってスペインにないの?なんで?スペインに住んでいる日本人も多いから普通にあると思ってたよ!ないって言われてそっちの方がびっくりよ!」と返された。

中国に負けたと思った瞬間だった。

調べてみると日本でも英語中国語ポルトガル語に対応している教習所があるらしい。中国ってどこの国に行っても中国語だけで生きていけるコミュニティがあるのが凄い。

 

免許で思い出したが、昔こんなこともあった。

グラナダでフラメンコを習っていた頃のことだ、先生が免許を取ると勉強していたのだが、その先生は毎回レッスンに車で来ていたのだ。

えっ?無免ですか?と聞いたらグラナダ市内なら大丈夫だけど(大丈夫ではない!)最近マラガまで踊りに行くからさすがにちゃんと免許取らなきゃって思ってるんだ!と微笑まれた。

無免なのに先生の縦列駐車は大胆かつ完璧だ。多少前後の車に当たっているようにも見えるが本人はまったく気にしない。スペインではよく見る光景だが、ギリギリのスペースに駐車する勇気と根性は称賛に値する。

私は「バンパーは当てるために存在する」という事をスペインで学んだ。

 

そして先生はその日も無免のまま車を運転して自宅へ帰って行ったのであった。