スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

シンパの話/ Sin Pagar

シンパと調べると何やら怪しげな感じで「共産主義などの共鳴者」などと出てくるが、私が言っているシンパとはSin Pagar(未払い)のことである。

スペインではSin Pagarを略してSimpa(シンパ)などと言うことがある。

しかーし、良い子の皆さんは決してマネしてはいけないシンパ。

 

使用例を挙げると

 

私: お勘定お願いしまーす

お店の人: はーい!

それから10分

私: 全然お勘定しに来てくれないなぁ

それからさらに10分

友人: 遅いねぇ。まだ来ないねぇ。

そしてまたまた10分

友人: シンパする?

 

シンパとはようするに「食い逃げ」のことなのである。

テーブルでのお会計が一般的なスペインのレストランではしばし(頻繁に)会計を頼んでから実際に会計が終了するまでに恐ろしく時間がかかる時がある。その待たされた時間に怒りを覚えるとき人は「シンパしてやるぞ!」という気持ちになるのだ。

気持ちになるだけであって、実際に実行したらそれは犯罪。まさしく「食い逃げ」となるので実行してはいけない。いけないが、あまりに待たされたりすると人は「頼んでいるのに会計しない店が悪いのだ。シンパされても仕方ないではないか!」と思ったりするらしい。

もっともらしい言い訳をされても犯罪は犯罪であるので私は実際にシンパしたことは一度もない。友人同士で冗談で「シンパしちゃう?」なんて言うことはあっても実際にはやらない。

が、私はシンパされた側になったことはある。

 

あれは私が日本食レストランで働きだして最初の週末だった。

レジ係に任命されていた私は平日の間にレジ操作を覚えさせられ、時間はかかるもののなんとか一人でこなせるようになってはいた。

しかーし、土曜日の夜の繁盛ぶりは予想外だった。しかもお会計は同じような時間帯に一気に重なってやってくる。ただでさえ時間がかかるのに目の前に積まれてゆく会計の山が私を焦らせ、私はパニックに陥った。

同僚は優しく「大丈夫、大丈夫」と励ましてくれたが、「会計はまだか!」とお客さんたちがざわついている気配はレジまで届いていた。それでもしょうがない。私は一人しかいないし、レジは一つしかない。一つ一つ確実に処理していく以外に方法はないのだ。

 

悪夢のような時間がやっと終わり最後のレジ締めを始めると私は再びパニックに陥った。

レジが合わないのである。何度計算し直しても合わない。しかもはした金ではなく、70€以上合わないのだ。

正しくは76.80€不足している。(一万円弱)

そして76.80€ぴったりの合計金額だったテーブルの会計を発見した。

この二つの事実が私に訴えかける真実は一つ。「シンパ」だ。

 

私には思い当たる節がある。地獄のような時間帯に30代の女性が「お会計待っているんだけど、まだ?」と言いに来たのだ。「すぐお持ちします」と答えたものの、どこの席の客なのか見当がつかなかった。そして同僚に聞こうと思いながらも目先の処理に精いっぱいで、その後すっかり忘れてしまっていた。

あれだ。きっとあの人だ。。。76.80€のテーブルのお客さんだ。

 

原因が分かったので社長に報告しに行く。弁償しろと言われたら辞めてやると覚悟を決めた。

「レジが合いません。シンパされた模様です!」

「・・・」「シンパって。本当なの?」

「はい。それしか考えられません。地獄絵図のごとくレジが混んでいたのできっと怒ってシンパされたんだと思います。精一杯やりましたが、すいません」

社長はしばらくじっとこちらを見ていたが、あきらめたのか「しょうがないわね」と言っただけで弁償しろだのなんだのと怒ることはしなかった。

よかった。私は首にならないし、お客さんもおとがめなしだ。

 

しかし、10年以上経った出来事にもかかわらず、私がいまだに「76.80€」と覚えている位「シンパされた側」の衝撃は大きいのだ。

皆さん、くれぐれもシンパなどしないようにしましょう!