スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン。私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

エキストラ

グラナダで暮らしていたある日、日本人の友だちが映画のエキストラの仕事をもらってきた。

なんでもマドリードで「GOL!2」という映画の撮影がある為なぜだか日本人を大量に募集しているとのことだ。

グラナダからマドリードまで距離はあるものの、面白そうなので友だち4人で出稼ぎに行くことにした。

 

昔のこと過ぎてバイト料がいくらだったか覚えていないのだが、グラナダマドリードのバス代を自腹で払わなくてはいけないとしても十分魅力的なバイト料だったと記憶している。なんせ貧乏留学生の身分だったのでバイトが出来るだけでもありがたい。

 

首都のマドリードに乗り込むにあたって私は初めて地方の人が首都へ乗り込む気持ちが分かった気がした。

マドリードには何度か遊びに行った事はあるものの、気分はすっかり田舎者。

のどかなグラナダでのらりくらりと暮らす身には大都会マドリードに行くのにはそれなりの身構えが必要だ。しかも今回はマドリードで暮らす日本人がたくさん集まる場所にグラナダからへなちょこ4人組が乗り込んでゆくのだ。なめられないようにしなければ!と何故だか行く前から緊張気味だった。

わーん(泣)怖いよぉぉぉ!首都に行くってこーゆーことなのね!

 

「GOL!2」は2と表記されるだけあって「GOL!」という映画の続編。(なんとGOL!3まであった)

しかし当時も、そして今に至っても私はまだ一度もこの映画を見ていない。

タイトルから簡単に推測できるようにサッカーのお話だ。一人の青年がサッカー選手になる話なのだが、実際のサッカーチームやサッカー選手が出てくるので話題になったとか。

私たちがエキストラで参加するのはレアル・マドリードが夏に行う日本遠征の一場面。

「日本のホテルでのシーン」という設定のため大量の日本人が必要だったらしい。

 

最初のシーンはホテルの入口に陣取り車が入ってきたらカメラを撮るいわゆる

「出待ち、追っかけ、カメラ小僧」的な役。「日本人=カメラ」分かりやすい。撮影スタッフに「車が来たらカメラでバシャバシャ撮ってね」「女の子たちはキャーキャー叫んでね」と指示される。

カメラに写らない列の後方を陣取ったため、前の人を隠れ蓑にしサボっているとマイクを持つ音響スタッフに「もっとキャーって叫ばなきゃ」と促される。

バレちゃーしょうがない、お金を頂く身なので指示通りやるしかない。外のシーンは寒いのでこっちも早く終わらせたいのだ。「キャーキャー」と必要以上に叫びカットがかかるたび音響スタッフの顔色を伺う。するとばっちり!と言わんばかりにウィンクしてくれた。ちょろいもんだ。

 

その後は軽食タイムが設けられ、順番にケータリング料理を頂いた後はホテル内のラウンジのシーン撮影に突入。

座ったり立ったり歩いたりと繰り返し、ちんたらちんたらと撮影は続き全て終了したときには既に深夜となっていた。長かった一日も終わり待ちに待った報酬支払いの列に並んでいると、メトロの営業も終わっているのでタクシー代がプラスで支給されているという噂が流れてきた。

支払い係りに「家はどこ?」と聞かれたので「グラナダ」と答えると

「?!?!?!グラナダグラナダってアンダルシアのグラナダ?」とドン引きされた。まさかグラナダからエキストラをやりに来てるとは思いもしなかったらしい。マドリード在住の日本人たちにも「あの人たちグラナダから来たんだってよ!」とひそひそ囁かれる始末。

協議の結果グラナダから勝手に出稼ぎに来た私たちにはタクシー代は支給されないこととなった。

残念無念だが、致し方ない。

今回100人程の日本人エキストラの募集があったようだが、100人も集まらなかったのでグラナダの私たちまでおこぼれが回ってきたのだ。贅沢言ってはいけない。日本人が集まらないからなのか日本人以外のアジア人も何人かエキストラに参加していたぐらいだ。

 

そして解散となったのだが、なんせ真夜中だ。当初の予定では最終のグラナダ行きのバスに間に合う時間には撮影が終わると見込んでいたのだがもう既にバスは終わっている。

首都マドリードなんだから24時間営業のファミレスぐらいあるだろうと、とりあえずタクシーに乗り込み希望を伝えるもタクシーの運ちゃんに「そんなものはない」とあっさり言われる。グラナダから来た出稼ぎ4人組みを可愛そうに思ったのか「空港なら24時間いられるよ」とありがたい助言を頂き、用もないのに(グラナダへ帰る時のバスの駅とは離れているのにもかかわらず)とりあえず空港で時間をつぶすことにした。

夜中の空港には嫌な思い出しかないのだが(※)、マドリードの空港は迷える子羊を優しく受け入れてくれた。

とりあえず屋根もあり、椅子もある上にコーヒーまで飲める。(カフェが開いていた)ありがたや、ありがたや。

ほっと一息つくと急に今日出会ったマドリード在住の人々の顔が浮かんでくる。あいつらは今頃家でゆっくりシャワーでも浴びているのではないか?ふかふかのベッドでゆっくり眠りについているのではないか?と考えれば考えるほど恨めしくなっていく。グラナダ組は用もない空港で睡魔と闘いながらコーヒーを飲んでいるというのに。

なんとも埋めようのない格差を感じだ瞬間であった。

 

それにしても長い一日だった。朝9時のバスでマドリードへ乗り込んできて、15時から会場入りし、25時過ぎに解散になり朝まで空港で粘り、また5時間かけてグラナダへ帰る。

濃厚な一日だったが、結局映画にはまったく映っていないらしい。

まぁエキストラなんてそんなものだろう。

それでも面白い体験だったので大満足だ。

 

※夜中の空港の嫌な思い出を綴ったブログはこちら

 

tokiotamaki.hatenablog.com