アウトプット
私はとてもおしゃべりな人間でとにかく口数が多い。世間話、無駄話が大好物で黙っていられない性格だ。
そんな私が日本語の通じない世界へよくも何も考えずに行ったものだと思う。
「スペイン語を勉強しに行くのだから、スペイン語ができないのは当たり前」と開き直りスペインへ旅立った。
大方の予想通り、スペインで暮らした初めの頃は自分の低レベルのスペイン語力のせいで思うように会話が出来なかった。
そりゃそうだ。当たり前である。
日本語ではエンドレスで話せるのにスペイン語になった途端話せる範囲がグッと狭まるということが何よりストレスだった。
特にケンカの時、言い返してやりたいのに言い返せないのは本当に悔しい。
一言多いタイプの私にとってこれは地獄だ。
「スペイン語が話せないからってバカだと思うなよ!日本語だったら絶対お前なんかに負けないからなぁ!」と何度思ったことか。
「口げんかに勝ちたい」「文句を言いたい」「愚痴を言いたい」「噂話をしたい」
という品性のかけらもない願望は私の糧となり、少しずつ言いたいことが言えるようになった。
スペインでは言いたいこと、思ったことを言わないとなかったこととされる。
特に不愉快だと思うことや嫌なことはきちんと言葉で言わないと誰にも伝わらない。
黙って誰かに察してもらおうなんて通用しない。
誰も察してなんてくれないのだ。
職場の同僚と一緒に上司の悪口が言いたい!噂話に加わりたい!と思ったお陰で伸びたスペイン語力。
みんなの輪に入り、聞き耳を立て良く出てくる言い回しやフレーズを覚えて、自分でも使ってみる。
教科書には出てこない流行の言い方や下品な言葉なども真似して言ってみると
「その歳でその言葉は使わない」とか「使い方を間違えると殺されるレベルの表現」
などとみんなが指摘してくれる。
使ってみたからこそ得られた知識だ!そしてこうやって覚えたスペイン語はしっかりと身に付く。
語学学習において、インプットとアウトプットはとても大切だ。
覚えたら使ってみる。こうすることでより深く頭に染み込ませることができるのだ。
その昔、国語の授業で「微々たるもの」という言葉が出てきたが、友だちのYさんは国語が苦手でこの言葉が理解できなかった。
意味がよくわからないというYさんのために例文を挙げ
「ほんの僅かとか、少し、取るに足らないとかそんな意味だよ。顕微鏡の微だしね。」と教えてあげた。
するとその日の午後、クラブ活動が終わりみんなで手を洗っている所にYさんが現れ、
「微々たるどいて」と言ってきたのだ。
「微々たるどいて」とは!なんと斬新な使い方!
Yさんは「ちょっとどいて」のちょっとを微々たるに換えたのだ。
確かに「微々たる」イコール「ほんの僅か」「少し」と教えた。
使い方は大きく間違っているが、インプットしたらすぐアウトプットするこの姿勢。
間違いを恐れず使ってみるこの姿勢が素晴らしい。
Yさん、お元気ですか?
私はあなたが言った「湯餃子」が頭を離れず、今でも「水餃子」を頼む時に一瞬あなたの顔が浮かびます。