方言
私は昔から方言が好きだ。
標準語より温かみを感じる気がする。
東京の東で生まれ育ち、方言と言うよりただただガラが悪い日本語を使って生きてきたので、方言のイントネーションに癒されるのである。
昔、京都弁を話す女の子がいて、あまりにかわいいので真似していたら
「ムカつくから止めて下さい」と標準語で怒られたこともある。
苦い思い出だ。
スペインにも方言があるが、カタルーニャ地方のカタルーニャ語、バスク地方のバスク語、ガリシア地方のガリシア語は地方公用語と呼ばれ、方言ではなく言語として認められている。
方言で有名なのはやっぱりアンダルシア訛り。
ざっくり簡単に言うとSを発音せず、全体的に鼻づまりっぽく話す感じだ。
Un Dos Tres、「ウン ドス トレス」が、「ウン ド トレ」となる。
綺麗なスペイン語を習得したいならアンダルシアへ留学してはいけない。
授業は標準語で教えてくれるが、学校を一歩出ればアンダルシア訛りの波が襲ってくる。
私の語学習得の目標は現地の人とのコミュニケーションだったので、訛っていようがいまいが会話が成立すればそれでよかった。
アンダルシアが本場のフラメンコを日本にいたときに習っていたため、アンダルシア訛りのスペイン語には全く抵抗がなかったし、耳で聞いて覚えるタイプの憑依方なので自然と訛りがうつっていた。
その結果、マドリードへ引越しした後も暫く訛りがとれず
「何でアンダルシア訛りなの?」と笑われた。
まるで山形弁を話すダニエル・カールの日本人バージョンだ。(古い)
マドリードで勉強している日本人の友だちがグラナダへ遊びに来た時のこと。
私よりもスペイン語が上手なので安心して彼に注文を任せたのだが、
「何を言っているのかわからない」と困った顔で訴えてくるのだ。
バルのおじさんは盛んに「ド エウロ」「ド エウロ」と叫んでいる。
2 euros ドス エウロス と言っているのである。
おじさんと私の会話はこうなる。
おじさん:「アルゴマ? Algo más?」 標準語読み→アルゴ マス?/ 他にも何かある?
私:「ナーダマ Nada más」 →ナーダ マス/ 他にはないです。
おじさん:「プエ、ド エウロ Pues, dos euros」 →プエス、ドス エウロス/
では、2ユーロです。
「ドエウロ事件」と名付けたこの出来事。
彼にとって初歩的なやり取りが通じなかったこの事件の衝撃はあまりに大きく、その後アンダルシア地方に彼が戻ることはなかった。
「訛っていても標準語はわかるが、標準語がわかっても方言はわからない」
これってすごいことではないだろうか?
ますます方言がうらやましい。
ただ、方言と言うのは土地に根付いた特有のもの。
一朝一夕でマスターできるものではない。
私が理解できる範囲なんてほんのごくわずか。
しょせん見様見真似で覚えたなんちゃってアンダルシア弁。
それでも、生れて初めて身に付いた方言のお陰でその土地に愛着が沸き、現地に溶け込むことができた。
方言の力は素晴らしい。