水漏れ事件
ある日曜の昼、ソファでくつろぎながらテレビを見ていた時、一滴の水が天井から落ちてきた。
よく見ると天井に埋め込まれている電気の隙間から水が落ちてきている。
そして一滴どころの騒ぎではないくらい水が落ちてき始めた。
水が落ちる先にバケツをおいたりしている間にも水の勢いは増すばかり。
パニックに陥り同じ建物に住む大家さん電話するも大家さんはのん気な口調で事態の深刻さに気付いていない。
「天井から水が滝のように漏れてきている!!!」と大げさに伝えたらやっと
「あら、大変。今そっちに行くわ」と家まで来てくれた。
大家さんが我が家へ着いた直後、水の勢いは増し「滝のよう」という比喩は比喩ではなく現実と化していた。
さすがに大家さんも開いた口がふさがらない。
二人で呆然と水が落ちてくる水源を見つめる。
と同時に部屋に広がるフローラルな匂い。
天井のかすかな振動とかすかに聞こえる「ウィーン」という音。
大家さんと目を合わせ二人同時に「洗濯機!」と叫んだ。
どーやらこの状況をまとめてみると、上の住人の洗濯機の排水が我が家の天井から漏れてきていると推測される。
我が家の物件は元々大家さんが所有していた家族用の間取りを半分にして単身用二軒にしたため上の階と間取りが違う。
大家さんは急いで上の階に行くが、住人は洗濯機を回したまま外へ行ってしまったようだ。
そうこうしているうちに水の勢いは弱まり、漏れてこなくなった。
大家さんは水漏れが止まって安心しているような雰囲気だが、しかし、ここで安心してはいけない。
水漏れの原因が洗濯排水だとすれば、洗濯機が回っている間ずっと水漏れする可能性がある。落ちてきた水はすすぎの水だろう。
ということは今止まった水漏れもまた脱水する時に落ちてくるはずだ。
若干やる気のなくなった大家さんに私の推理を聞かせ、このままではまた惨事が繰り返される!とはっぱをかけ上の住人との連絡を急がせる。
幸い上の住人は近所のカフェにいたので事情を説明し急いで帰って来てもらうことに。
「連絡もらって飛んで帰ってきたのに、全然水漏れなんてしてないよ。驚かせないでよ~」
とのん気な声で我が家のリビングに上の住人が着いたとたん、脱水第二弾が始まった。
再び流れ落ちる滝のような水。
先程よりフローラルな匂いが薄くなったが、やっぱりこれは間違いなく洗濯排水。
「なんで洗濯機止めてこないのよ!」と怒る大家さん。
「だって、僕の家は全然水漏れてないよ。洗濯機だって普通に動いてるし」といまいち状況が飲み込めない住人。
「あなたの家が平気でも、あなたの洗濯機の排水が全部ここから漏れてるのよ!だから早く洗濯機を止めてきて!」
大家さんの必死の訴えのおかげで洗濯機は三度目の脱水の前に強制終了することに成功した。
因みに、実はこの大惨事の数日前まで私は3週間入院していたのだ。
もし私の入院中に水漏れが起こっていたら!と想像しただけでも恐ろしい。
大家さんが家にいる時でよかったし、上の住人も近くにいてよかった。
落ちてきた水が洗濯排水だったのは本当に不幸中の幸いである。