ブターノ
スペインでは未だに都市ガスではなく外付けのブタンガスを家庭で使う家がある。
私もスペイン滞在中何度かお世話になった。
「俺は東京生まれヒップホップ育ち」
もとい、東京生まれ東京育ちの為、スペインに行くまで鍋で使うガスコンロ以外のブタンガス(プロパンガスを含む)を見たことがなかった。
スペインのブタンガスはブターノまたはボンボーナと呼ばれ、12.5kg入りのオレンジの重い入れ物に入っていて湯沸かし器などに繋げて使う。
残量メモリなど親切な物はなく、ガスが出なくなった時がガスがなくなったということになる。(言葉にするとバカっぽさ全開だ)
世帯人数などにより家に常備できるブターノの数は決められているのでたくさん買い置きすることは出来ない。
私が住んでいた所では2個または3個しなかった。したがって、ブターノが一つ終わると電話で注文して交換に来てもらうことになる。
残量が分かりづらいため、シャワーの途中で水に変わるという悲劇がいたるところで発生する。
私は真冬にシャンプーの途中で水になった。
ブターノに関しては「いける」などという甘い希望的観測をしてはいけないのである。
何を持って「いける」なんて思ってしまったのか、見通しが悪かった自分を責めるしかない。
シャワーの場合長い時間強い火が必要なため、ガスがなくなりそうな時は念の為新しいブターノに変えておくべきだ。
そーじゃないと悲劇に見舞われる。
アルゼンチン人のエレーナと暮らしていた時、ブターノがなくなるタイミングは不思議といつも私が使っている最中だった。
エレーナには予知能力でもあるのだろうか?と思っていたが、
ブターノを振ってみれば何となく残量がわかるというのだ。
わかるのなら前もって換えておいて欲しい。
「ギリギリまで使いたい。だけど自分で換えたくない」と思っているに違いない。
私の被害妄想だと思いたいが、エレーナがシャワーを譲ってくる時に限ってお湯が途中から冷たくなっていくのは偶然ではないのだろう。
スペイン人に聞くとこの水シャワーの悲劇はブターノあるあるで、誰でも一度や二度は経験があるらしい。
それならば残量メモリなり、自動音声なりでガスの残量をお知らせするように改良してくれれば悲劇は起きないと思うのだが、誰も発明してくれない。
引越し先がオール電気物件だった時はこれでやっとあの不便なブターノ生活とおさらばできるととてもうれしかった。
が、電気は電気で他の問題が潜んでいた。
私が住んだオール電気物件はすべて貯湯式の電気温水器が設置されていた。
昔の台所によくあった瞬間湯沸かし器とは違い貯湯式とはタンクに水を貯めてから沸かす構造だ。
容量50L~80L位なので限界がくると湯切れする。
そのため二人連続でシャワーを使うのは少々厳しい。
少し時間をあければまた直ぐ温かくなるのだが、こればかりはしょうがない。
こんな時は「ブターノだったら残量さえあれば変わらない温度で続けて何人だってシャワーを浴びれるのになぁ」と思う。ないものねだりだ。
ブターノでも電気温水器でも一定の不便さと共に生きるのがスペインの生活だと思って諦めるしかないのだ。
※リッチな友だちの家にはジャグジーがあったし、設備の整った環境に暮らしている人もたくさんいます。