スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

引越し

スペインで10年暮らしている間、私は何と9回引越しをした。

 

スペインでの引越しのいいところは、家具付きの物件が多いためとても身軽に引越しできる点だ。

生活最低限の物がすでにそろえてあるのだ。

ベッドやソファ、ベーシックな調理器具に食器類。掃除用具などもついている。

もちろん洗濯機や冷蔵庫も。

大物家具を持って引越ししなくていいので引越しも身軽にできる。

しかし引越し先にあるとわかっていても他人が使ったシーツは嫌だし、自分好みの食器も欲しい。

スーツケース一つでスペインに来たものの滞在時間とともに荷物は雪だるま式に増えていく。

 

シェア物件が日本に比べるととても多いのだが、私はもっぱら一人暮らし派だった。

一人暮らしよりシェアの方が安いし契約が簡単なのだが、語学学校に通っていた時に半年間シェアをしてみた結果、高くついても一人がいいという結論に達した。

「自由」をお金で買うのだ。誰にも遠慮せず、好きな時にお風呂に入り、友達を呼んだり泊めたりできる。テレビを独り占めできるし(因みにスペインでは大抵の場合一家に一台しかTVがない。日本の実家には三台TVがあったと言ったらえらく驚かれた)人間関係で悩むこともない。

 

ただ一人暮らしとなると契約は最低一年で、働いている人は過去三か月の給料明細を提出して家賃が払えることを証明したり、働いていない人や学生の場合は現地で働いている人を保証人にするか、初めに保証金をたくさん払うかする必要がある。

外国人留学生の場合、未払いで逃げられる可能性もあるため貸す方も慎重だ。

 

物件探しは専門サイトで探すか、街で「貸します」看板を探して電話してみたりする。

貸主が直接貸してくれるところもあるし、不動産屋が仲介している場合もあるが一長一短だ。

不動産屋が仲介すると家賃の一か月分が手数料として取られてしまうが、何かあった時に大家さんとの間に入ってくれたり、保険がちゃんとしていたりする。

大家と直接の場合は家賃交渉の値引きや融通がきいたりすることもあるが、大家と相性が悪い場合は最悪になる。

 

物件探しの時「日本人」というのはとても良い武器になる。

まず日本人はとても評判が良い。

特に部屋を貸す側にとって「きれいに使う。騒音を出さない。住んでいる人がどんどん増えない」というのはとても重要らしい。

実際私は「日本人なら大歓迎」と何度も喜ばれた。

この評価の高さは先人の日本人の方々のおかげだ。

 

引っ越ししたばかりの頃、勤務中に宅急便が届き不在だったため携帯に電話がかかってきた。

「宅急便だけど、どこにいるの?」

と言われても勤務中なのでお昼休みまで家に帰れないと伝えると

「それまで待てないよ。あっ、君の家の一階はレストランだね。そこに預けるね」

と言ってくる。

「引っ越したばかりでレストランの人も知らないし、近所の人も知らないから困る」

と言ったら

「ホセだって。レストランのホセってのが預かってくれるってさ。よかったね」

と電話が切られた。

 

ホセって誰だよ。

 

不在票を置いていけばいいだけの話なんじゃないのか?

それなのになぜ他人に預けるのだ?

一抹の不安を抱きつつ猛ダッシュで仕事帰りにレストランへ寄ってみると、

ホセと思われるおじちゃんが

「おまえさんが最近引っ越してきた日本人だな!おまえさんの荷物は俺がちゃんと預かっているぜ!」と満面の笑みで私を迎えてくれた。

「これからも荷物が来たら預かってあげるから安心しな!」

となんとも優しい言葉。

勝手な配達人のおかげで思いがけずに知り合いができたのはありがたい。

 

面倒なことが多い引越しだが、引越しのお陰で色んな人と知り合うことができたし、色んな街を知ることができたので9回の引越しも無駄じゃなかったなと思う。