スペインに惚れました

10年暮らした愛しのスペイン私の独断と偏見に満ちた西方見聞録

お客様

スペインにおいて日本の鉄板「お客様は神様」という概念は通用しない。

人はどの職業においてもそれぞれ権利があり、お客と店員は対等の立場だ。

 

長年接客業をしてきた私は「神様」までは思わないにしてもお客様と対等な立場などと夢にも思ったことはなかった。お客様の要望に応えられないときはとにかく謝るのが普通だし、来てくれたことへの感謝やお待たせした時の謝罪など、特に訓練しなくても自然と出てくるのが日本国民たる証ではないだろうか。

だが、ここスペインで日本の接客を期待してはいけない。

頭を下げて「いらっしゃいませ」などと恭しく出迎えてくれる事は皆無だ。

お客も店員も「こんにちは」と言い合うのみ。他の人を接客している時だと挨拶すらしてもらえないこともある。日本だと店員は店全体に気を配り、接客中であっても他のお客の動向を常に気にしているが、こちらでは接客している客に対してのみロックオン。それ以外は見えないものとされる。接客をして欲しい場合はただひたすら自分の番が来るのを待つのみである。自分の番が来たら今度は私にロックオンしてくれる。

 

接客を受けたい買い物時に一番避けなければいけないのは閉店間際。

店員は皆、一目散に帰りたいので閉店間際の客が大嫌いだ。日本の場合、百貨店などではたとえ閉店時間になっていても、商品を見ているお客様や買い物している人を追い出すことはあまりしない。(帰って欲しいのは山々であっても)閉店までに店にさえ入ってしまえば小心者でなければ堂々と買い物が出来る。が、スペインでは誰も許してくれない。「閉店時間=退社時間」と考えている人が多く、閉店時間の30分前ぐらいから皆そわそわしながら閉店準備に取り掛かる。15分前ぐらいになるとひどい店ではシャッターを半分下ろしてしまう所もある。そして閉店時間ぴったりに店は閉まるのである。

そして皆猛ダッシュで職場を去ってゆく。大げさではなく本当に猛ダッシュで帰る。スペインに来て興味深いなと思ったのは、始業時間は比較的ルーズなのに終業時間はドイツ人並みの正確さだということ。皆一分一秒も早く仕事を終えて友だちや恋人、家族に会いに職場を去ってゆくのである。

 

スペインでは家族や友だち、恋人と過ごす時間を何よりも大切にしているので一大イベントはやはりクリスマスだ。24日のクリスマスイブは通常半ドンになる。因みに「半ドン」などという言葉を使うと歳がばれるらしい。今時の若者は「半ドン」と言う言葉を知らないそうだ。土曜日も授業があった昭和生まれまでが使い、完全週休二日制になってこの言葉は忘却のかなたへ押しやられてしまった。「半ドン」とは半日勤務や、お昼までで終わる午前中までの授業の日のこと。

話を戻すと、スペインの24日は半ドン。つまりお昼で仕事終了。店も閉店して24日の夜と25日はクリスマスを家族でお祝いするのである。そして驚くことに24日の夕方から25日の朝まで交通機関まで休んでしまうのだ。レストランもお休みだしタクシーの数もびっくりするほど減る。実家に帰ったりするわけだからタクシーや交通機関くらい営業すればいいのに。と現地の人に言ったら

「タクシーの運転手も交通機関で働いている人にも家族があるでしょう。彼らにもクリスマスを家族と過ごす権利があるわ。」となんともまっとうなご意見。

どこまでも客と労働者が同じ目線、皆に平等に与えられる権利、そしてそれを受け入れる懐の広さ。

「お客様は神様ではなく、お客様も私たちも同じ人間」

日本にも根付かせたい精神だ。

 

免税店で働いていた時、同僚のスペイン人が日本人客から

「この革の靴は雨の日でも大丈夫なのか?」と聞かれた時、

「牛も雨の日に外にいるから大丈夫だ」と答えていた。

靴を買った日本人から日本ではいたら白い靴下に色落ちしたとクレームが来た時は

「黒の革靴の時に白い靴下を履かなければいい。マイケルジャクソンか!」と一蹴された。

日本でもこんな接客をしてみたい。